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「じゃあ何?別に痛い事される訳じゃ無いし、転生が決まるまで、ここでのんびりしてればいいの?」  地獄と聞いて正直ビビったが、煉角は優しそうだし、半罪人だからって責め苦を与えられる訳では無さそうだ。 「はい、基本的には。ただ、半罪人の服役期間は最短でも、500年はかかりますが」 「500年っ?!ハリネズミと温泉しかないのに、その間どうやって暇つぶせってんだ!ゴロゴロするしかやる事無い、クソつまんねぇ毎日になるじゃねぇか」  冗談じゃない。と息巻く俺に、鬼は不思議そうに首を傾げてみせた。 「学さんって生前は、素人が投稿した無料動画や、無料のいかがわしい動画サイトをハシゴしながらゴロゴロしてるだけの、クソつまんねぇ人生歩んでましたよね?それと大して変わらないじゃないですか」 「何で知ってんだよ!…って、その様子だと、動画が見られるタブレットか何かあるんだろ?それ貸してくれよ」  ずいっと手を差し出すと、煉角は割れた顎を擦り、長い牙を覗かせて微笑んだ。 「動画が見られるタブレットは、確かにあります。でもここは一応地獄ですし、学さんは半罪人ですからね…。嗜好品や娯楽用品が欲しいならそれなりの責め苦を受けないと、手に入れる事は出来ません。タブレットですと、このトゲが付いた棍棒で10回ブン殴られたら、一週間使い放題です。ちなみにイバラの鞭で臀部を10回打たれたら、キンキンに冷えた生中が一杯貰えますよ」 「どういう基準で決めてんだよ、それ!劣悪債務者が送られる地下の強制労働施設の方が待遇良くねぇか!?俺は借金なんかしてないってのに…!」  しかも、これ位ならギリ我慢出来るかな?って所を、上手く突いて来る刑罰だ。流石は鬼だぜ…! 「でも学さん、奨学金制度利用してますよね?あれも立派な借金ですよ」  はは…ぐうの音も出ねぇわ…。結局借金残して死んじまったし。 「……るっせぇな!ここがガチの地獄じゃ無いなら、どうせ、もっと楽して嗜好品が手に入る方法があるんだろ?それ教えろよ」 「そうですねぇ~。極楽浄土に行く事が出来れば、手に入りますよ。あそこなら望んだ物が簡単に具現化しますから。て言うかぶっちゃけ、ちょっと位悪い事していても、善行さえちゃんと積んでいれば、大抵の人は極楽浄土に行けるんですがね。学さんは悪人ではありませんが、これまでの善行が極端に少なすぎて、地獄に落とされちゃった訳です」  そう説明しつつ、再び台帳をじっくりと確認している。  何だか納得が行かなくて、つい愚痴が漏れた。 「そんな大事なことを、何で誰も教えてくれねーんだよ…。生まれた時に言ってくれてたら、俺だって、もっと真面目になって、善い行いに励んだのに…」  何言ってんですか。と、今度は強面が呆れ顔で迫って来る。 「ありとあらゆる欲望に溢れた人の世で、それでも道を踏み外さずに自ずとその真理に辿り着き、どんなに今が辛くとも善行に励む事こそが、正しく人として生きるって事でしょう。大体、目の前にエサぶら下げて言われてやるんじゃ、善い行いとは言えないですよ」 「鬼のクセに、坊さんみたいな事言うんじゃねぇッ。もう死んでるし地獄にいるから今更だよ!」  泣きたい気持ちで頭を抱えた。 「まあまあ、そう嘆かず。さっきも言いましたが、ここは地獄パークです。なのでガチの地獄とは違い、救済措置ってのがちゃんとあるんですよ。学さんの善行で感謝している存在があれば、霊体となってここに現れ、極楽浄土まで導いてくれるんですが…。見た所、学さんは生前に一件だけ、善い行いをしていますね。近所の糞餓鬼に指先をクルクルやられて、目を回していたトンボを助けた事があります」 「俺の善行ショボすぎない!?しかもそれ一件だけぇ?もっと他にあるだろ!」 「いえ…。これしかないです。学さんって空気読めなさそうだし、皆で食べる大皿の唐揚げに、断りもなくレモン汁ぶちまけそうですよね。良かれと思ってやった事が、相手からするとただの迷惑だったんじゃないですか」    畜生!確かに新歓コンパでそれやって、微妙な空気にはなったけどよ。盲点だったぜ…。  他鬼(たにん)に指摘されると、改めて自分のクソさに泣きたくなるな。 「まあいいや。その助けたトンボが、俺を極楽浄土まで連れてってくれるんだよな。そいつ、どこにいるんだ?早く会わせてくれよ」  ウキウキしている俺とは対照的に、何故か煉角の奴はぶっとい眉毛を険しくさせて、何度も台帳をめくっている。 「おやぁ…?学さんの親友の、烏丸 良介さんなんですが。彼も半罪人として、一昨日ここに来てますね」  あいつも半罪人かよ。まあ、俺の親友やれる奴なんだから、そうなるわな。 「良介が何か関係あるのか?」 「はい…。実は一昨日、『あの時助けて頂いたトンボです』って、間違えて良介さんを迎えに来ちゃったみたいなんです」 「はあぁぁぁあ~っ?!人違いだよ!あいつ俺の近くでボケッと見てただけだよ!トンボの奴、まだ目ぇ回してんのか!」  お気の毒です。と、煉角は話を締めくくった。 「良介さんは『やったぜ。』と言いながら、大喜びでトンボの脚に掴まり、極楽浄土へ昇って行ってしまいました」 「良介の野郎ォ…!俺のトンボだぞ!香典返せボケェ!」  灰色の地面に拳を叩き付けて慟哭する俺に、優しい鬼はちょんちょんと肩をつついた。 「まだ、救済措置はあります」
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