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参
「学さん、あれを見て下さい」
煉角が指差した針の山…もとい、ハリネズミとヤマアラシの山のすぐ傍に、キラリと光る物が垂れ下がっている。
「あ、あれはまさか…!あの有名な、蜘蛛の糸…?!」
「そうです。あの糸は、極楽浄土と繋がっているんですよ」
光る糸に誘われる様に近付き、辿りながら上空を仰いだ。
漆黒の垂れ込める雲と、横一文字に走り抜ける稲妻の間で、糸はゆらゆらと揺れている。
途轍もなく不安だ…。
「…蜘蛛の糸って、確か途中で、ブチッと切れるんだよな」
「いえいえ。ここは地獄パークですから。この糸は硬質ポリエチレン樹脂の繊維を縒り合わせて作ってあるので、簡単には切れないですよ。頑丈な柱に結んでありますし。でも、半罪人の皆様は基本的に努力するのを嫌う上に、他力本願で時間にルーズでクソな方が多いので、誰も挑戦したがらないんですよね~。残念です」
…チッ、何も言い返せねぇ。その通りだ。
「御釈迦様は、ガチの地獄に初めて糸を下ろされた時、罪人達の余りの浅ましさと醜さに大層嘆いておられました。『や~っぱ人間なんて、こんなモンなんかなぁ~』と。今は、必死で糸を奪い合う罪人達の顔が面白いらしくて、ニヤニヤしながら毎日糸を下ろしておられます」
「御釈迦様それクセになっちゃってるじゃん!…クソ、人間の底力をなめんじゃねぇぞッ!俺が初めての、蜘蛛の糸達成者になってやらあ!!」
闘志を漲らせ、糸を掴む。
地面を蹴って勢い良く飛び付き、二度三度と腕を交互に伸ばして、身体を引き上げて行く。
……が、早くも手のひらが痛くなって来た。
て言うかさ…。糸を掴んで昇るって何?普通に無理じゃない…?
荒縄とかならまだ解るけど、糸だぜ?
そこそこの高さまで昇った犍陀多の奴、結構ガッツあるよなぁ…。あいつスゲェわ、マジで。
1.5m位昇った所で、俺は元の場所にズルズルと着地した。
「この糸を昇りきるのって、どれ位かかるんだ?」
「そうですね…。何年もかけて休みなく筋トレすれば、3日で極楽浄土に行けると思います」
「…極楽浄土は、何だって手に入る、楽園なんだよな?」
念押しする俺に、にこにこと煉角は頷いてみせた。
「ええ、もちろん。極楽浄土は、基本的に真面目な方が行く場所なので、全員が毎朝7時に起床して滝に打たれた後、写経をする決まりがあります。その後は建物の雑巾がけや清掃を行い、夜を迎えるまで、御釈迦様のありがたいお話を拝聴する、素晴らしい生活が待っていますよ」
「……へぇ、そうかい。なぁ…煉角さんよ」
俺がこの第二地獄パークで、初めてやる事…。
それは。
「今すぐ俺のケツを、イバラの鞭で10回打ってくれ。そいつで生中一杯と、交換だ」
終わり
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