或る部屋と魂について

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 日登美は、自分の胸に手を当ててうっとりとした表情を見せる。 「そしたら、少しずつ変化が起こり始めた。健二の気持ちとか記憶が、自分のことのように頭の中で再生されるようになってきたの。私の中に、健二の魂が入ってくるようになったの。霊に憑りつかれたとか生まれ変わりとかの話って、きっとこういう現象が裏にあるんだよ」  綾はまだ泣いている。日登美はそれを気にしない。 「でも、やっぱり魂の量が足りなかったみたい。最近はあんまり変化がないんだ。もしかしたら、これ以上は無理なのかもしれない。そろそろ、こうやって閉じこもってても意味ないのかも……」  綾は泣いている。日登美は気にしない。 「だけど、もう十分だよ。健二の考えてることとか、してほしいことが手に取るようにわかる。魂を全部集められなかったのは残念だけど、私の考えは正しかった」  綾は泣いている。日登美は気にしない。 「今は、また会えたことが何より嬉しいの。心の中でお話しできることが、嬉しい」  綾は泣いている。日登美は気にしない。 「ね? そうだよね」  綾は泣いている。日登美は気にしない。日登美は―― 「そうだよね……健二」  日登美は、俺に語りかけた(、、、、、、、)。 「私、頑張ったよね」  その問いかけに対し、俺も返事を返してやる。 ――そうだな、日登美。やっぱりお前は最高だ。綾の奴とは大違いだ 「えへへ、健二も最高だよ……! そうだね、お姉ちゃんは何も分かってないよね」 ――ああ、まったくだ。あのとき、俺がお前をああしていたのだって、元はと言えばお前が原因なのに。 「そうだよね、殺されて当然だよ。私が男友達なんて作るから。本当にごめんね、不安にさせちゃって」 ――もういいんだ。こうやって俺を蘇らせてくれたんだから。 「へへ、ありがとう。健二は優しいね……」 「ね、ねえ」  俺と日登美が話していると、不意に綾が声をあげた。涙を溜めた双眸には、恐怖の色が見て取れる。 「日登美あんた、誰と話してるの」 「誰って……分かるでしょ。健二だよ」 「な、何言ってるの……」
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