3.ホームレスストアにようこそ

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「ありがとうございました、またお越しくださいませ〜」  今日はいつもよりつい早口になってしまう。信濃さんがいる日なのでお客さんの数は多いし、隣のレジでは信濃さんがマンツーマンで伊吹さんにレジ研修をしているため、必然的に僕のレジにお客さんが集中するからだ。  しかも伊吹さんは覚えが悪すぎる。メモはおそらく店長にもらったのか持ってるみたいだが、いかんせん理解力がなさすぎる。  さっきから何回も信濃さんが同じ説明をしている。その度にイライラが伝わってくる。もうブチ切れてしまうんじゃないか。  しかし、伊吹さんは言葉もあまり理解できてないように見えるから、本気で怒られても何も思わないんじゃないだろうか。さっきなら信濃さんの口調がキツい言い方になってきているのに、伊吹さんは笑っている。それが人を馬鹿にしてるような笑顔ではなく、人と喋れて嬉しい笑顔のように感じるから、信濃さんも怒るに怒れないんだろう。    だが、僕も呑気にチラチラ横を見てる場合ではない。お客さんをさばきながら、あとで信濃さんに聞くために分からないことを整理しておかなければならない。なんせ、次の勤務はあの伊吹さんと二人っきりになるかもしれないからだ。  まずは宅配受付。これは一度もやったことがないし、隣で受付しているのを見たこともない。めったにこないから大丈夫と山木さんには言われたが、一番来てほしくないときに限って来てしまうのが世の常だ。  あとはスポーツ新聞の納品と返品処理は一回やったから大丈夫だし、揚げ物や肉まんの調理もマニュアルがあるから大丈夫。まぁ、揚げ時間を多少間違えても誰も困らないだろう。掃除や商品補充はこなれたものだし、レジももう慣れた。それに今日で嫌でもさらに慣れるだろう。  となると、もう分からないのは宅配だけ? あれ? 余裕じゃん。弁当や新商品の納品があっても深夜勤の人がやるから放っといてもいいって言われてるし。それにイレギュラーなことがあってもその場で対応しなくていいものは店長に全部ふっちゃえばいいしね。  僕は思わず安堵した。そのとき、自動ドアが突然開いて、覆面をした男が凄い勢いで入ってきた。  あれ? これってかなりイレギュラーなことじゃ。
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