21人が本棚に入れています
本棚に追加
4.覆面強盗がやってきた
「手を上げろ!」
覆面男の右手には銃が握られていた。あれは本物なのだろうか。本物だとしたらどこで手に入れたのだろう。
「おい、お前上げろ!」
語尾が強くなった。僕に言ってるのか。慌てて両手を上げる。男は真っ黒の覆麺に真っ白なヘルメットをつけている。アニメのカリメロを思い出す。僕が生まれる前のアニメらしいが、僕はレトロアニメを観るのが好きなんだ。世界名作劇場とか。
横を見ると、信濃さんと伊吹さんも神妙な顔で手を上げている。二十歳のアルバイトが昨日までホームレスだった人にレジを教えている最中に強盗が入ってきた。これはかなり珍しいことではなかろうか。
そもそも伊吹さんは今日から働き始めたのは間違いないが、やはりまだホームレスなのだろうか。正式に雇われてるホームレスというのもまた珍しそうだ。
そしてその横の信濃さんも強盗をにらんではいるが、少し顔に怯えが出ている。これも珍しいことだ。
「動くなよ」
強盗は僕に囁くようにそう言い、信濃さん達のほうに歩いていった。僕がこの店で何の権力もないって分かったのだろうか。あぁそうか、名札に若葉マークがついていた。伊吹さんも、もちろんついている。つまりこの空間の責任者は信濃さんだということがバレている。
裏に店長が残ってくれていたら、監視カメラで見て警察に連絡してくれたかもしれないが、あいにく仮眠を理由に帰ってしまっている。なんて間が悪い人なんだ。
「おい、姉ちゃん。このポーチにレジの札束全部詰めろ」
強盗は信濃さんに銃を向けている。やはり伊吹さんは相手にされてないようだ。
しかし信濃さんはすぐ動かなかった。ヤバイよ、信濃さん。なぜ動かないの?
そのとき信濃さんが、チラッとレジの壁側に視線をそらした。なぜそんなところを見たんだろう?
まさか? 信濃さんはレジの後ろに置いてある防犯カラーボールのほうを見ていたのでは? 投げる気だろうか? いや駄目だ、あれは武器を持ってない敵に当てて犯人の証拠を残すものだ。本物かもしれない銃を持ってる強盗に投げても返り討ちに合う危険性がある。
最初のコメントを投稿しよう!