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3.ホームレスストアにようこそ
生きた心地がしなかった。
一昨日、ホームレスは当店で六日連続二時間以上滞在の新記録を打ち立てた。
しかも見届人は僕と信濃さん。来た瞬間、「すいません」と謝りに行ったら耳を引きちぎられるくらい引っ張られた。大学で数少ない友達に状況を言ったら、「ご褒美じゃん」と言っていたが彼は分かっていない。おそらく耳を引きちぎられるかと思うほど引っ張られたことがないのだ。
そして鬼の形相でにらまれてるんじゃないかと怯えながら仕事する恐怖も知らないのだ。
幸いにも親切な山木さんからの情報のおかげで、信濃さんの一番怒りそうなことは避けれた。
トイレ掃除も腕がつるんじゃないかというくらい掃除した。
レジ応援は走ってお客さんにぶつかりかけたのは怒られたが、慌てずにダラダラ歩いて怒られるという最悪の状況は防げた。
私語はこっちからは一切せず、暇な時間は消臭スプレー噴射と、ホットドリンクの補充等に勤しんだ。もちろん今度はメモ用紙をフル活用した。
だが、僕がワンカップ大関を差し入れしたせいでホームレスが居付いてしまったことには最後まで怒っていたようだった。入れ替わりのときに店長は半笑いだった。
そして昨日。僕は休みだったが、ホームレスは来たのだろうか。来ていたら七日連続来店の新記録を更新してしまう。それどころか、これからは休みなく毎日来てしまうかもしれない。僕がワンカップ大関をあげてしまったばっかりに。
今までの人生でこんなに緊張することがあったろうか、というくらい心臓がドクドクと音を鳴らしていた。
店に着きたくない。赤信号で止まっていると、そう思った。自転車を漕ぐ脚も震えていた気がする。なぜ俺は原チャリの免許も持っていないんだ。呼吸が苦しい。
気付けば店に着いていた。外から見るとポップな色の店なのに、地獄の館のように見えた。呼吸を整え、意を決して入る。昼勤のパートさんに挨拶をして、いざ事務所へ。唾を飲み込んで扉を開けると、僕はそこで衝撃的な光景に出会った。
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