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「時間をとってしまってすまなかった」
少し離れて待機していた俺たちに、落ち着いた様子のアルトが声をかけてきた。
「大切な人との別れなのだから仕方ないさ」
おおらかな笑顔でそう言う冬季にアルトは小さく笑って礼を言う。
冬季も大切な人を失ったことがあるから、気持ちがわかるのだろう。
俺はそんな二人の様子を暫く見つめてから、頃合いを見計らってアルトに声をかけた。
「気になったことを聞いてもいいか」
「なんだい?」
「まさかとは思ったんだが、もしもリトが記憶もろとも消えていたら、フィーネの人たちも俺たちも、あんな過去があったことを忘れてしまっていたのか?」
「…………」
沈黙したままじっとこちらを見つめる蒼い瞳を、俺もまたじっと見つめ返す。
「……どうしてそう思ったんだい?」
あくまでもしらを切るつもりのようで俺は眉根を寄せた。
「前に、他の人の怨念がリトに吸収されたって言ってただろ。んでからさっきのリトの物言いからして、そうなんじゃないかって思ってな」
「なるほど。……そうだね。リトの中に吸収されたのがたとえその思いだったとしても、正確には存在ごと吸収されている。だから、リトが消えれば自ずとその過去は薄れる……もしくはなかったことになる。もちろん俺がまだいるからまったくではないが、改変されるだろうとは思うよ」
だからこそ、リトはアルシアと同じ選択を取りたくなかったのか。
てっきりアルトのことだけなのだと思っていたが、そうではなかったらしい。
「でも、忘れていい過去ではないからこそ、俺はリトの選択は間違っているとは思わないけどな。その執念はすごいと思うけど」
横で話を聞いていた冬季が薄く笑みを浮かべてそう言う。
こいつがこんなことを言い出すとは珍しいな。
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