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まぁ、俺としてもあの壮絶な過去がなかったことになるのは、確かに間違っているとは思うが。
それを自分が記憶から消えないようにする手段を取ることで食い止めたリトの思いは、凄いと言わざるを得ないか。
などと考えていた俺の横で、アルトが小さく笑った。
「そういった間違った道を辿った過去があるからこそ、これからの未来を変えられる。忘れていいものではない。だけどいつまでも悔やむより、それぞれの多様性を受け入れられる社会を――いや、世界を、ここに生きている人たちが、これから生まれてくる子達が築いていけたらいいよね」
未来を見据えたアルトの言葉に、俺は冬季と顔を見合わせてから深く頷く。
かつてそこに生きて、そこで苦しんだ人の言葉だからこそ、余計に胸に響くものがあった。
種族も、恋愛も、身体的なことも、それぞれがせめて理解し合えて認められる世界になれれば。
それはとてつもなく難しいことではあるけれど、少しずつ少しずつ進んでいけたら、と思う。
「さぁ、そろそろここから帰る時間だ。一度知り合いに顔合わせをしてきたらどうだい?」
「……そうだな」
昨日のうちに別れの挨拶は交わしたが、とうとう本当にこの世界とお別れだ。
もう一度ちゃんと顔合わせしてもいいだろう。
俺は渚の手を取るとアルトから離れてレオたちのところへ向かった。
「スザク、ナギサ」
笑顔で出迎えてくれたレオに気恥ずかしくなり首元に手を当てる。
そんな俺を渚が柔らかい笑みを零して見つめていたが、突然横から小さいなにかが体当りしてきたことで驚きの表情に変わった。
「ナギサーー!!」
「わわっ?!」
ひしっと渚の足にしがみついたナツが額をグリグリと押し当てている。
こんなにも感情を出したのは初めてではないだろうか。
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