第34話「君と繋ぐ、未来へ。」

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「それじゃあ、準備はいいかな?」  アルトが天水晶の近くに集められた人々を見回してそう声をかけてくる。 「おう、大丈夫だぞ」  笑顔で頷く美晴に続いて他のやつらも頷いた。 「んじゃ、荒玖」 「あ?」 「最後の挨拶は荒玖に任せるからな」 「はぁ?」  ポンポンと背中を叩かれて押し出されてしまい、眉を歪めて美晴を睨む。  けれど、いつもの笑顔が返ってくるだけで効果はなかった。 「いいじゃないか荒玖。ほら、挨拶」  渚にまでそう促されてしまえば逃げ道はない。  俺は小さくため息をついてから笑顔を向けてくれる面々に頭を下げた。 「それじゃあみなさん。一ヶ月程でしたがお世話になりました」 「ありがとうございました!」  俺の言葉に美晴も明るい声で続く。  他のやつらも口々にお礼を告げた。  そんな中。 「ありがとう、ございました……」 「渚……?」  同じように頭を下げた渚の声に、俺は心配になり声をかけた。 「……ごめん。大丈夫、だから……」  そうは言うものの、頭を下げたままで顔をあげない。  その声が、華奢な肩が、震えているのがわかった。 「……渚」  ポタポタと落ちる雫が石畳に斑点を作っていく。  そんな渚の涙に気づいた他のみんなも、グッと何かを飲み込むような顔になった。  きっと今、渚の脳裏にはここにきてからのたくさんの記憶が浮かんでいるのだろうと思う。  楽しかったこと、苦しかったこと、たくさんの人たちとの出会いと思い出。  それは確かに、俺たちにとってかけがえのない記憶だ。  だからこそ、ここまで笑顔のままでいた渚が今、耐えきれずに涙を流す理由もわかった。  わかるからこそ、俺は震える肩に手を置いて声をかけた。
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