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第三話 Wish I could
なんでも言うとおりにする。
二人を生き返らせてくれるのならば、と神に願っている。
大切な誰かを失うというのは、こうも絶望的な気持ちになるのだなとあの日から毎日感じている。
自分は前世で何かとんでもない悪事を働いたのだろうか。
その罰を今受けているのかもしれない。
両親も憔悴しきっていてあまり会話がないが、学校の先生や周りの友達が葬儀のときに腫れ物に触るように慰めの言葉をかけてくれた。
彼らは気を使ってくれているというのに、その言葉が全く私の心に響かない。
もうたくさんだと感じてしまう自分にも嫌気がさすし、これからもずっとこんな扱いを受けるのだろうかと辟易してしまう。
こんなときにまなかがいてくれたら心強いのに、そのまなかがいない。
自分にとって死というのはもっと年をとってから緩慢にやってくるものだと思っていた。
まなかも蒼もまだ自分と同じ子どもなのに、あの世に送り出すなんて私にはできない。神様が彼らに逝ってよしと許可を出したのならば、なぜなのか理由を知りたい。
何の抵抗もなく、まなかは蒼のことを助けようとしてくれたらしい。
大人も周りの同級生もそんな彼女に称賛の言葉をもらしているが、弟のために身を投じるべきだったのは自分だったのではないかと悔やまれてならない。
体の透けている少年に正面から向き合われると、どこを見ていいのかわからなくなり、挙動が不審になってしまう。
「一瞬だけ目が合った気がしたんです」
葬式の帰りに声をかけられ、うっかり返事をしてしまってから学生服の幽霊らしき彼を振り切ろうとしたが、思いの外しつこくて観念した。
家まで来られるのは絶対にイヤなので、近くの公園のベンチに一緒に座っている。
「申し訳ないけれど、俺はきみのことを生き返らすことはできないよ」
まだ中学生だったであろう彼は幼い顔をしているわりには冷静に見えて、俺の発言に対して「はあ」とだけ言い、そんなことは別に期待していない様子を見せた。
「僕は・・、あの日起きたことを大体覚えてるんですけど、まなかさんがそのときの記憶を無くしているみたいで混乱してるんです」
まなか・・。亡くなったクラスの美澄さんのことだ。
「きみは、もしかして・・」
彼はうなずくと葉山楓の弟の蒼です、と言った。
葉山楓、彼女も俺と同じクラスで美澄さんといつも行動を共にしていたと思う。
「道ずれにしてしまったんです」
事故の詳細を知らなかった俺は目を丸くしていると、葉山楓の弟はどうしたらいいのかわからないんですと悔いている様子だ。
美澄さんの記憶はもしかしたら戻らないかもしれないが、この世にいる限りそのうち事実は耳に入ってくるだろう。
「無責任なことは言えないけど、美澄さんが命をかけてきみを守ろうとしたのなら、本当のことを話しても受け入れるんじゃないかな」
蒼くんはそうですよね、とぼそりと言うと、俺に名前を聞いた。
「ああ、夏目です。蒼くんのお姉さんとまなかさんと同じクラスメイトの」
澄んだ目で俺を見つめた蒼くんは、夏目さんは姉とまなかさんと親しかったですか?と聞いてきた。
「・・・、ごめん。もしかしたら二人とも一度も話したことないかも」
謝罪する俺に、蒼くんは特に残念がることなく、いえ、大丈夫ですと言った。
なんとなく俺のコミュ力のなさをわかっていたのだろう。
「僕もクラスメイトとはあまり話さなかったので・・、仕方ないです」
蒼くんはでもと切り出すと、今まで誰にも気付いてもらえず、今日俺と出会えたのはまたとないチャンスに思えるのだと言った。
自分に何ができるのかわからないが、救いの手を求める彼を突き放すことができなかった。
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