乙女達のバレンタイン

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「何よ・・私の方が先に好きだったのに、横取りしようなんて美月ちゃん酷いよ」  陽菜ちゃんはそう、その美貌に翳りを見せた。愛らしい瞳に涙を溜めて・・  通行人達が振り返る。誰がどこからどう見ても、ヒロインは彼女で、悪役は私だ。  でも一度啖呵をきったのだ。もう後戻りはできない。周囲にどう思われようとも、ここは絶対に譲れない、そう思った。この会社に入社した時、決めたのだから。逃げてばかりの人生を変えようって────。  モブ()だって頑張ったっていいじゃない!!! 「ごめんね陽菜ちゃん。でも好きになるのに先とか後とか、ないから」  キッパリ言い放った私を、陽菜ちゃんはきっと睨みつけた。 「美月ちゃんなんてもう知らない!無駄だろうけどせいぜい頑張れば!」  彼女はそう言って踵を返すと、私を置き去りに先を走っていった。その後ろ姿を眺めながら、私は小さく溜息をついた。  ・・こりゃ、しばらく喋ってもらえないかもな。  これまでずっとことなかれ主義を貫いてきた私にとって、こんな風に友達とモメるなんて考えられなかった事だけど。  でもなんでだろう。  意外にも、スッキリ・・。  予想通り、陽菜ちゃんはその後、仕事の事以外は話してくれなかった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 「陽菜ちゃんのアレは、手作り確定だもんな・・」  営業時間内に滑り込んだデパートでなんとかプレゼントはゲットした。何買っていいか全然わかんないから、とりあえず使ってもらえそうなネクタイにした。何の捻りもないけど、せめて最上さんに似合いそうな色をと思って一生懸命考えた。  チョコレートも購入したものを、と思っていたけどライバル宣言をしたばかりの私、つい陽菜ちゃんを意識してしまう。 「なんか楽に済ませてると思われたくないしな。いやでも、そんな事してないで勉強でもしろって怒られる可能性大だけど・・」    結局悩んだ末に、手作りにする事に決めた。フォンダンショコラの上に、ハート型に固めたストロベリーチョコレートと生クリームを飾り、ラッピングする。残ったチョコレートは秘書室のみんなに配ろうと思い、型に流して固めて袋に詰めた。作業が終わったのは夜中の2時。  陽菜ちゃんも今頃、頑張っているのだろうか・・  そして迎えた2月14日────。 「雨宮さん♡」    朝からもう何度目か、投げかけられた女性の声に足を止める。要件はもうわかっている。予想の通り女性が差し出したのは、綺麗にラッピングされたチョコレートだ。 「これ最上さんに渡してもらえませんか?」  ・・電車を降りて会社に向かい秘書室へと歩みを進める道中、至る所でそう声をかけられる。既に私の手には結構な数のチョコレートの箱が積み重ねられていた・・。  嘘でしょ?  社内の評判最悪だから、てっきりライバルはそういないと思っていたけど・・  めっっちゃ大人気やんけ、あのおじ様・・。  腐っても美形。  腐っても高年収。  腐っても会社の重鎮。  中身はどうであれ、あわよくばと狙っている女は五万といるという事か。
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