頃来

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‘何時でもいいから電話ちょうだい。バイトがあるから9時以降’ ふっ…それなら9時以降に乃愛から電話してくればいいことを。 「玲央、スマホ見て笑うの怖いから」 聖がいつもよく食べているショートブレッドを食べながら言う。 「一本くれ」 「ん、何本でも」 「でも、これと違ってフランスの…」 「気に入らないなら食うな」 「もらう」 俺が一本取り出すのを見ながら 「乃愛の店どうなの?」 一度行ったことがある聖が聞く。 「聖の見たまんま」 「店自体はいいと思うんだけど?」 「ああ」 「立地も不便なところではないし」 「ああ」 「商品も店の広さと雰囲気に合ってる」 「ああ」 「でも、玲央が口出ししたいって顔してる」 「乃愛の前ではしない」 「ならいいけど?」 「ずっとマイナスでも趣味と思って店を持ち続けさせてはやれる」 「だろうな。でも乃愛はそんなこと望んでいないし玲央もそれをよくよくわかっている」 「その通り」 「リミットは?」 「3月」 「閉めるの?」 「いや、俺が手と口を出す。でもアパートからうちに引っ越すだけで家賃がいらないだろ?だからそれだけでバイトはいらないはず」 「そうか…健闘を祈る」 「聖もな」 聖は自分からは言わないが、このところの休み方から週末は仕事を離れているようだ。今も聖は何も言わずにただ曖昧に頷きキーボードを叩き始めた。
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