現在

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玲央が出て行った店内に、今、目の前にいた彼の香りが残っている気がする。ミドルノートだった。このあとのラストノートを思い出す自分の臭覚が恨めしい。 リセットしたくて飾っているチューリップに鼻を近づけるが、残念ながらほとんど香りはない。チューリップは黄色やオレンジのものは香るようだがあまり匂いはない花だ。 ドアを開け放ち、一歩外へ出て大きく伸びをする。高く見える秋空を眺め 「天高く馬肥ゆる秋」 そう呟いてから店へ戻った。食欲の秋とも言うよね?明日は玲央の奢りでいっぱい食べてやる。財布なんて持って行かないんだから。 そう決めてやりかけていた仕事をする。メラミン食器のセットをプレゼント用に箱詰めラッピングしようと思っていたところだったんだ。 私は、プレート、スープボール、マグカップを丁寧に箱詰めしつつ 「乃愛に会いに来た」 玲央の声を繰り返し思い出していた。
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