$1.イカサマな日常

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 "黒部容疑者から直接謝罪の言葉はあったんでしょうか!?" "今後被害者の方々への対応はどのようにお考えでしょうか?" "神崎社長!""神崎さん!" ザーザー降りの雨の中、会見会場に入れなかった報道陣が正面玄関から姿を出した正吾を取り囲む。傘を持ったボディーガードに阻止されて揉みくちゃになりながら前につけた黒いスモークガラスに覆われた車に乗り込む。 カメラのフラッシュを浴びながら何とか後部座席に乗り込みバタンッとドアを閉まるとすぐに車は発進した。  バシバシと雨が車を叩きつける音だけが車内に響き、黙って前を向く正吾の隣で振り返りリアガラス越しに小さくなっていく報道陣を見ている男。  「見るな」  「……親父、大丈夫か?」  「あぁ平気だ、何ともない。それよりそっちはどうなんだ?」  「事件が報道されてから客室のキャンセルが相次ぎOCCは60%、それだけならまだしも以前宿泊した客が自分も取られたと言い掛かりのような電話も何件かきてる」  「ったく、そんな低俗な客もうちに泊まるんだな」  そう言って鼻で笑った正吾。EVO Hotel&Resortは国内トップクラスの高級ラグジュアリーホテルだ。近年は海外リゾート地にも建設し、国内海外共に勢いを伸ばしているホテル会社。  しかしこの大型連休のOCC(客室稼働率)の低迷はホテル業界は致命傷。今回の事件をうけてシンガポールから一時帰国した正吾は、ホテルの明暗をかけて謝罪会見を開いたがこれが吉と出るか凶と出るかわからない。  「とりあえずそこらへんは各ホテル支配人に対応は任せてあるけど」  「そうか。(いく)、頼んだぞ」  一人息子の神崎(かんざき) (いく)は大学卒業から父親の横でホテル経営を学んできた。まだ26歳の若き後継ぎはすでに会社を仕切る父親の右腕として十二分な業務をこなしてる。  「明日夜にはシンガポールに戻る」  「それじゃそっちのオープンは予定通りに?」  「当たり前だ、こんな事で変更などしない」  しばらく走った車はそのまま鉄製の門扉の前に着ける。防犯カメラが四方にあり二人のスーツの男が門を開けた。目の前の白い洋館の建物は900坪、地上3階地下1階の間違いなくこの親子が住む神崎邸だ。  「おかえりなさいませ旦那様」  入口で出迎えた30代後半の眼鏡の男、田ノ上(たのうえ) (あきら)は郁の秘書であり身の回りの世話役だ。  「こっちはどうだ?」  「はい。今の所、マスコミらしき者は来ておりません」  「わかった」    そして正吾は家に入るなり電話をしながら秘書、弁護士、ぞろぞろ引き連れ自身の書斎へ入っていった。そして田ノ上が疲れた顔の郁を見て気遣う様に言った。  「郁さん、お食事なさいますか?今日は朝からまだ何も口にしていないかと」  「いや、いい。それより少し寝たい」  「わかりました。それと(せい)さんから先程連絡がありまして折り返して欲しいと、、、まだお互い連絡先教えあっていないのですか?」  「聖とは極力話したくないからな。まぁけど今はそんな状況でもないか。わかったやっておく。親父が呼んだら起こしてくれ」  彰は"かしこまりました"と郁に電話番号の書いた紙を渡した。部屋に戻った郁は"はぁ"と大きなため息をついて、ベッドに倒れこむとスーツのネクタイを外して投げ捨てるように床に置く。  事件関連のホテル対応に追われてここ二日間起きっぱなしの郁は重い瞼を閉じてすぐに眠りについた。  
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