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10 元副会長、早々に欠席する。
連日の公衆の面前での恥辱に僕は泡を吹いて倒れそうだ。
何だ。僕はそんなに前世で悪行を積んだと言うのか。
今迄同性にこんなにあからさまなセクハラをされた事はなかった。何故急に。
やはりこの学園が特殊なのか。
相手の合意なんか考えない身勝手な変態ばかりじゃないか。
神薙副会長じゃなく僕の方が震えて良いくらいだが、僕は羞恥の為顔に熱を帯びながらも、下を向いて耐えた。
……だが、あんな事実を知ってしまったからにはこのまま登校するなんて耐えられない。一度帰ってシャワーを浴びたい。頭っから熱湯シャワーを。
最近忙しくてオナニーすらままならなかったのに妙にスッキリしていた謎も解けて…いや解けたがキツイ。
まさか意識の無い間にアレやコレやとされていたなんて。
じわり、と目頭が熱くなった。
こんな…こんなのは、公開レイプみたいなものじゃないのか。少なくとも僕の心情的にはそんな気持ちだ。
自慢じゃないが僕は女の子ともまだ付き合った事が無いんだぞ…。告白された事は何度かあるが、大学に進学する迄は、勉強に専念すると決めているからと断って。
たまにフラストレーションが溜まったらオナるくらいがせいぜいだった、清らかな体を…。
きっ、とルプスを睨み付けると、ルプスはビクッと肩を震わせた。
さっき迄あれだけ眉を寄せて唸っていたのとは別人のように、怯えた表情。
「ど、どうした、しの?」
「……らい……」
「……え?」
「嫌いだ!」
「えっ?!」
僕はルプスに向かってハッキリとそう言い、今来た道を寮に向かって駆け出した。
走り出す前に、視界に映ったルプスの表情はよく見えなかったけど、今の僕には、僕の投げかけた言葉に相手がどう反応するかなんて事を気にかける余裕は無い。
一刻も早くこの場から姿を消したかった。
ルプスや役員連中なんか、知るか!!
寮部屋に戻って制服を脱いで、直ぐにシャワールームに飛び込んだ。
気持ち悪い。
いくら相手が美形だろうが、男女の別なく気持ち悪い。
知らない間に好き勝手されていたってのが本当に無理。
何だってどいつもこいつもこんなに勝手なんだ。
せっかく仲良くなれそうかと思ったのに。
シャワーのレバーを最大に捻って湯を出す。
直ぐに髪や肩が濡れていく。
わしゃわしゃと顔を洗い、髪を泡立て、体を擦る。
気が済む迄湯で流してからシャワーを出ると、何だか一気に疲れて、バスタオルで拭いている間にもう授業に向かう気力が萎えてしまった。
編入早々申し訳ないけど今日はもう休もう…流石にメンタルがもたない。
僕は髪を乾かして部屋着を着ると、疲れ果てて自室へ戻ろうとしてビクッとする。
部屋の中にはルプスがしょんぼりと座り込んでいた。
何故にまた僕の部屋にいるんだ。ハウス。
ルプスは戻ってきた僕を見て、一瞬パッと表情を明るくしたが、直ぐに神妙な顔に戻った。
僕の表情が険しいのに気づいたらしい。
「なんでいるんだ?学校は?」
ここはお前の部屋じゃない。ハウス。と、僕は向かいのドアを親指で指した。
そしてスマホを取り出し、学校の事務に休む旨の電話をかける。
心身共に打ちのめされて、著しく体調不良だ。
電話を切って振り返ると、ルプスは未だ座っている。
その姿を見て、溜息を吐きながら僕は疲れきった声で言った。
「疲れてるんだ。
1人にしてくれ。」
ルプスを立たせて追い立てる。
「具合い悪いなら看病を……、」
と言い出す彼に、
「誰のせいだと思ってるんだ!!」
と返す。
最後は悲鳴に近かった。
僕はルプスをドアから出して内鍵を掛けた。
「頼むから少し放っといてくれ。」
そう呟いて、よろよろ歩いて数歩先のベッドに潜り込んだ。
布団に入るとやっと少しホッとできた。
そう言えば体調不良を理由に授業を休むなんて初めてだな、と思いながら目を閉じた。
とんでもない所に来てしまった、と後悔する。
ほんの数日でここ迄のダメージを負わされるとは。
それでも、これが日常で此処では彼らの方が普通だと言うのなら、何とか折り合いをつけていかねばならない。
今更、前の環境に戻れる状況でもないのだから。
今日はともかく、明日からは何とか順応していかなきゃな…。
そう思いながら目を閉じた。
意識が徐々に落ちていく。
何処か遠くで子犬がクンクン鳴いている。
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