12 元副会長、級友の新事実に触れる

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12 元副会長、級友の新事実に触れる

翌日、僕のメンタルゲージは7割がた回復した。 ルプスは朝になっても姿を現さなかった。声はかけていないが、部屋にいないのかもしれない。 思えば、僕が来た日もいなかったし、共用部分の生活感の薄さから、何らかの事情で不在がちなのかと思っていた。 あるのはマグやコーヒーだけだったし、シャワールームや他も、綺麗なもんだったからだ。もしかして只の潔癖かな、と思ったりもしたが。 学年毎の寮だから、同級生という以外、同室者の事は何も知らなかったが、潔癖症な所があるなら上手くやっていけそうな気もしていたのに、蓋を開けたらアレだった。 初対面(?)の他人を舐め回せる辺り、明らかに潔癖症の類ではないと思われるし、僕が勝手に思っていた"何らかの事情"も、どんなもんかわかったもんじゃない。 不良だ。きっとルプスは不良なんだ。 …そう、思ったのだけれど…。 『ごめんなさい。 きらいにならないで。』 高校生ならぬ、大きさもまばらの、いびつな字で書かれたそれを見る迄は。 何かが引っかかっている。記憶の片隅に。 気をしっかりもて。 そう、自分を叱咤しながらネクタイを結び、髪を整え、眼鏡のレンズを拭いて掛け直す。 鏡の中の自分は、何時もの僕の筈だ。よし、大丈夫。 僕は大丈夫。 編入早々に妙な事に巻き込まれたが、僕自身が平然としていれば乗り越えられる。 「……大丈夫、僕は大丈夫。」 幼い頃に両親が離婚してから、ずっと自分にかけ続けていた言葉を今朝も口にする。 僕は大丈夫だ。 玄関を出て鍵を掛けていると、他の部屋の生徒達もぼちぼちと登校の為に出て来ていた。中には僕をちらちら見ている生徒もいる。 臆するな、僕。平静を保て。 「おはよ。大丈夫?」 「あ、園田君…おはよう。」 後ろから肩を叩かれ振り向くと、園田君と御池君が揃って立っていた。 「俺らの部屋、近かったんだな。」 「何号室?」 「306。」 僕の部屋が304だから、1部屋間に挟んだだけか。 確かに近い。 寮の部屋は全クラスランダムに決められているらしいから、同じクラスで最初に仲良くなってくれた2人と部屋が近いのはラッキーだな。 「御池君の部屋も近いの?」 僕が御池君に聞くと、彼は妙な顔をして答えた。 「ん、だから306つったじゃん。」 「……あ、園田君と御池君って同室なのか。 それもあって仲が良かったんだね。」 なるほど、と僕が納得していると、2人は顔を見合わせている。 「えっと、というか、さ…、」 「俺と園田、付き合ってっから。」 「……えっ?!」 一瞬フリーズする僕。 「ごめんごめん。 佐藤に耐性がついてきたら何れは言うつもりだったんだけどさ。」 「初日に聞くにはハードかなって。 まあ佐藤自身、もっとハードな事になっちゃってたみたいだけど。」 「馬鹿っ、それには触れるなって…!」 「あっ、ごめん! 佐藤、ごめんね!」 「……ウン、ダイジョウブ…。」 そうか。お気遣い、痛み入る。 そうか。 僕の事はもう気にしないでくれて良い。それよりだ。 雰囲気にアテられて付き合ってるカップルって、君達自身の事だったんだな…。 他人事なので嫌悪感は無いが、何とも言えない気分にはなり、自然と無表情になってしまった。 「でも付き合ってみると結構楽しくてさ。」 場の雰囲気を変えようと思ったらしい園田君が明るく不純同性交友について語り出し、それは校舎に着き、教室の席につくまで続いたので、その間僕は他の生徒達からの視線を気にせずに済んだ事に気がついた。 園田君、ありがとう。 君がより深く届くからという理由で後背位が死ぬ程好き、という事はよくわかった。 そして、やはり何とも言えない気分で着席した僕は、隣りの席に座っている人物がこちらをじっ、と見つめている事に気づいた。 綺麗な銀糸の髪、暗い蒼の瞳の上の濃い銀色の眉を八の字に下げた、ルプスだった。
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