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15 元副会長、幼き砌の新事実
「えっ、覚えてないの?嘘でしょ…?」
絶句、とでもつきそうな語調で伯父は言った。
幼い頃、僕は一時期伯父の家に預けられていた事があった。伯父の家は、つまり母の実家だ。
その頃は未だ祖父母も健在で、僕はそんなに寂しい思いもせず過ごしていたらしい。
らしい、というのは、その頃の記憶が朧気だからだ。
そもそもが預けられていたのも、父の浮気が原因での離婚の話し合いをしていた時期だったかららしいが、覚えていない。
父は手を上げるタイプの人だったので、避難させられた、という事は後から知った事だ。
その、伯父の家の隣に住んでいたのがルプス。
とはいえルプスも僕が離婚を成立させた母の元に戻って暫く後、お父様の仕事の都合に合わせて一家で国外に渡ったらしいので、僕とルプスの関わりあいは伯父の家で暮らしていたほんの数ヶ月だった事になる。
それでも伯父の元にいたその期間、僕は毎日のようにルプスと過ごし、僕が帰る事になった時はルプスが大泣きしてその後数日は精神不安定になったというから、よっぽど仲良くなっていたんだろう。
僕はと言えば、両親の離婚が成立して母に親権が渡ったのを不服に思った父が、僕の連れ去りを企てたりと色々あったようで、幼心がキャパオーバーしてしまったのか、その辺の記憶が無いのだ。
それを言うとルプスはしょんもりと悲しげに俯いた。
当時の僕もきっといっぱいいっぱいだったんだろうが、そんな顔をされると覚えてないのが何か申し訳ないな…。
仲良しだった記憶をばっちり覚えているルプスはきっと、僕が編入してくると聞いて、期待いっぱいで待ってたんだろうな。
その割には初日はいなかったし、やらかした事は許せない訳だが。
しかしルプスにしてみれば、自分の存在を忘れられていたのはショックだったんだろうし…益々強く怒れなくなってしまった。
「あの頃は色々あったもんな~。
言われてみれば、るーちゃんの事、引越したって言った後からは全然聞いて来なかったよね。
忘れちゃってたのかあ~笑」
「何か申し訳ない。」
「結婚の約束迄しといてねえ~笑」
「えっ」
あ、よくある子供の頃のアレか。
「るーちゃんにプロポーズしといて、忘れるのはひどいよねえ。天使みたいに可愛いるーちゃんに、あれだけ夢中で、おとこのこでもいい!って言ってたのにねえ~笑」
「えっ、僕の方が?」
思いがけない事実に愕然とする。
ルプスは何かを訴えるように目を赤くしながら僕を見ていた。
「……しのの、ハクジョウモノ…。」
「ウッ…」
薄情者。た、確かに…。
幼い頃の事とはいえ、綺麗さっぱりプロポーズした相手の事を忘れていたとは不覚だ。
涙目になったルプスの言葉が胸に刺さる。
「な、なんか…ゴメンね?」
でもルプス男じゃん!という言葉は伏せておく。
どうやら当時の僕は、別にルプスを女の子と勘違いしていた訳でもなく、男子と認識した上でプロポーズしていたようだし、それに この多様性の時代に年齢や性別を言い訳にするのはよろしくないだろう…。
僕はともかく、相手は真剣に考えていたとなれば余計に僕の罪は深い気がする。
涙目で震えている美青年相手に、な~んだそんな子供の頃の事、真に受けんなよな~、なんて茶化せるメンタルも持ち合わせてはいない。
ここは取り敢えず、誠心誠意謝罪するしかないか…。
「ルプ……」
「俺はしののいいなづけなんだからな!!」
「……いや、えぇっと…。」
被せてくるようにルプスが言うので謝罪に失敗した。許婚者って。
ルプス、意外に古風な言葉を知っているじゃないか。
……じゃなくて、許婚者(いいなづけ)って…もうルプスの中では確定しちゃってたのか。でも、あの頃からかれこれ、13…14年くらいは経過してるけど、まさかその間ずっと?
「俺はしのとしか結婚しないから!!
もう味だって確かめたし、取り込んだし!!
俺たち一族は一生涯に一人としか番わないからっ!!」
「お、出た。るーちゃんちの家訓。
るーちゃんのパパもよくそれ言ってたよねぇ。」
伯父がルプスにそう言うと、ルプスはふふん、と鼻を鳴らした。
いや泣きべそかきながら威張るとか。
味確かめたとか、僕も未だそれについては怒ってるんだが。
…………じゃない、待って。待って待って待って、待ってくれ。
「る、ルプス…んちの、家訓?って…?」
怖々と伯父に問う。
知りたいような、知らない方が良いような。
「るーちゃんちはねぇ、とある国の貴族の流れを汲む一族なんだけど、これぞと言う人を伴侶と定めたら、絶対に結婚するし、浮気も離婚も再婚もNGっていう、なかなか苛烈なお家らしいよ~笑」
「……それは…家の存続的に、どうなんでしょうかね…。」
「結構多産なんだって。
血統絶える心配は無いんじゃない?」
「…………ソデスカ…。」
「俺は、しのとしか番わない!!」
「おっ、張り切ってるね、るーちゃん!!」
「…………番うって…。」
「しの!!だいすき!!」
「…ありがとう…。」
……僕、結構前から詰んでたみたい。
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