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16 元副会長、打診を受ける
『これ、お土産!2人で食べてね!!』
と、帰り際に渡されたのは、僕が好きなベルギーのチョコレートブランド、Vの箱だった。
甘いものは得意ではないけれど、このブランドのものは何故だか好きだ。
最初は、球体の惑星のような美しさに、つい口にしてしまっただけだったんだけど、甘いだけではないまろやかな口溶けに、好物のひとつになってしまった。
ルプスももう一つ、別の袋を渡されていて、それは別のチョコレートブランドのGのもの。
どんだけ男子高校生に甘味与えるのか。いや嬉しいけど。
理事長室から出て、寮へ帰る道中、僕は気不味くて仕方なかった。
ルプスも少しむくれてるし…。
「…ルプス、ごめんね?」
取り敢えず、謝るべきだろう。忘れたくて忘れた訳じゃないが、傷つけたんなら謝るべきだろう。
僕も一応、謝罪は受けた訳だし、な。
ルプスはじとーっと僕を横目で睨んでいたが、ハァ、と息を吐いて、仕方ないなという顔をした。
「うん、もういいよ。
しのも大変だったもんな。」
「…ありがとう。」
……でもこれ、忘れてたのは許しては貰えたけど、許婚は生きてる流れかな。
それも無しで、とは言い辛い雰囲気だ。
正直、恋愛経験も無いので自分のセクシュアリティがどういう方向に向いているかは断定出来ないけど、だからって男で大丈夫、とは…いやどうなんだろ…。
悶々と悩みながら寮への廊下を進む僕と、機嫌が直ってご機嫌なルプス。
渡り廊下から見える中庭の木々が夕陽に照らされ夕方の風にさわさわと揺れて、これはこれでなかなか良いものだな、と思う。
そんな僕らの前にいくつかの人影が現れたのは、もう直ぐ寮に到着する、という辺りだった。
「あのっ!!!ちょっといいですかっ?!!」
「あっ、ルプスさまも一緒…。」
小柄な、未だ中性的とも言えなくもない生徒が3人。
ちょっと気の強そうな、えらい事可愛い顔した猫っぽい子と、後ろに従っている子犬のような美少年が4人。
少なくとも同学年か、下でも1学年しか違わない筈だがすごく華奢で幼く見える。
え。これってまさか。
一昨日の叔母との電話での会話が頭を過ぎった。
もしやこれが、叔母の言ってた王道学園に巣食うアングラ集団、生徒会親衛隊とかってやつなのでは?は、やはりアレか。会長に蹴りを入れたあの件か。
僕、虐められるのか…。
役員やめぼしい美形やイケメンには親衛隊というものが付いていて、彼らに近づく者や逆らった者には容赦ない嫌がらせをし、葬り去ると言う排他的闇組織に一般モブの僕は為す術なく苛まれるのか!!
(※全寮制男子校に対する著しい誤認II。)
僕はとうとうそんなヤバい集団に目をつけられてしまった、と天を仰いで目を閉じた。
母さんごめん。
僕はここ迄のようです…。
ところがその生徒達は、顔を真っ赤にしながら僕に向かって叫んだ。
「僕っ、1年A組の織名 飛鳥ですっ!!
佐藤様のっ、ファンクラブをっ、作る許可をっ、たまわりたくっ!!」
「……?」
見かけによらず、気骨を感じる語調だ。何か他校の運動部の応援でこんな感じの集団見た事ある。
……じゃなかった、え?
「……ファンクラブ?」
誰の?
「誰の?ルプスならそこにいるけど…。」
そういうのは本人に、と言おうとしたら、
「ルプス様のは、もうございますしっ!」
と言われて黙る僕。
「あの、1年S組の日生と申します。僕達は佐藤様のファンなので佐藤様のファンクラブが作りたいのです。
ご迷惑はおかけしませんので、どうか。」
どうやら緊張しきりのネコチャンを見かねたらしい後ろのクールな子犬が助け舟を出し、僕に言った。
しかし僕は首を捻る。
何故僕に?
「あの……佐藤違いでは?」
「この学園に、山田佐藤鈴木という平凡な名は数名しかおりませんので間違いようもございません。」
「……そうですか…。」
これって僕のファンってのが疑わしく思われるdisりなのでは?
そもそも編入間も無くて、突出した何かなど無い僕にファンなどつくものだろうか?
素朴な疑問が胸に過ぎる。
「何故、僕にそんなものを?」
素直に疑問をぶつけてみると、その生徒達はやにわにもじもじと顔を赤らめて、
「会長様に…蹴りを入れて見下すあのクールな眼差しが…忘れられず…。」
「…………。」
お母さん。
全寮制男子校は、非常に不可解なところです。
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