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17 元副会長、保留にする
ファンクラブ。
親衛隊とは違うのか。
確かに親衛隊という字面よりは、もっとフランクで取っ付き易いイメージではある。
「しの、あると便利だよ。」
ルプスがニコニコしながら言うが、お前…そんな、コンビニか便利グッズみたいに…。
「便利って?」
「ゴハン持ってきてくれる。」
「…そんな事で他人を使っちゃ駄目だろ…。」
「ん~…洗濯してくれたり」
「無償労働を強いるな。」
「だってぇ…」
僕とルプスの遣り取りを見ていた5人は、ソワソワしながら口を挟んできた。
「あのっ!」
ネコチャン。(定着)
君達の方がファンクラブが出来そうな程に可愛いが。
「ファンクラブあると、ルプス様の仰る通り便利だと思います!」
「と言うと?」
僕が彼らに向いて首を傾けると、何故か一瞬場が沸いた。何だ。
それから、コホン、と小さく咳払いして話し出したのは、先程のクール子犬…黒髪の綺麗な日生くんだった。
「例えばのお話ですが、佐藤様をよく思わない人達や、他の親衛隊やファンクラブからの嫌がらせなどが発生しにくいです。
個人ではなく支持団体が背後にあると、折衝を図り易い傾向があるんです。」
「なるほど…?」
それは確かに、そんなものかもしれないな。
例えばの話というより、確実にあの時敵を作ってそうなのだ。
「失礼ながら、生徒会の親衛隊の皆様は、少し面倒な方が多いので 万が一事を構えるとなるとそれはもう、姑息で稚拙な嫌がらせに御身を晒す事になってしまいます…。」
やっぱりそうなんだ~。
叔母の話が真実味を増して来て、意図せず遠い目になってしまう。逃げたい。逃げられないなら、引き篭もりたい。
「しかし万が一の有事の際にも僕らファンクラブがいれば何かと細やかなケアを…。」
「しかしそれは、君達の負担が増えるという事では?」
僕が一番引っかかるのはその点だ。
すると日生君は答えた。
「そこはご心配無く。
推し活なので。」
「趣味ですのでっ!」
「御姿を拝見できますだけで眼福!」
「お声を聴ければ涅槃に遊ぶが如き心地!」
「息して下さってるだけで至福!」
「「「「「生まれてくださりありがとうございます!!!」」」」」
「………。」
「わぁ~、すご~い!熱烈~!」
「…………。」
ルプスは傍でキャッキャしているが、僕は半目になってしまう。
嘘だろ。
この世に生まれて17年、呼吸してる事をこんなに褒められた事は無かった。
有り難いけど、伯父さんの次くらいにこのノリきっついな。
いや、そういうのってもっとこう…生徒会役員かルプスか、何なら園田君達くらいのルックス偏差値ならば納得もできようものを、何故僕。
それを質問したら、
「何を仰るのですかっ!!
佐藤様はお美しいですっ!!」
もうおわかりだと思うけど、今のセリフはネコチャンだ。
その後に他の子達が続ける。
「小さな頭、ノーブルさを感じる端正なお顔立ち、知的差を演出するお眼鏡…」
「演出じゃないからね?僕、本当に近視だから。
神薙副会長の伊達とは括らないで?」
「すらりとした長身に、長い手足。我が校の制服をそれ程迄に着こなせるお方は、日本中で貴方様くらい!」
「そうかなあ…結構な確率でいると思うけど…。何なら直ぐ横のルプス見て?」
「しかも、編入試験はほぼ満点に近かったとか!
御姿だけでなく頭脳も明晰でいらっしゃる!」
「誰から聞いたの?」
「理事長です。」
そこは答えるんだ。
というか、そんなの漏洩しないで伯父さん…。
僕は、ついさっき別れたばかりの伯父の所に戻って苦情を言おうかと思ったが、思い留まった。
今日はもうあのテンションには触れたくない。
冷静にならなければ、と眼鏡のブリッジを中指で押し上げると、何故かそれに過剰反応されて困惑する。
「佐藤様の長く美しいそのお指…どこ迄届くんだろう…。」
顔を紅潮させている5人。
僕は今、一体彼らの頭の中で指をどうされているんだろうか。
「……ちょっと、時間を下さい。」
ファンクラブの件は保留にして帰ってもらった。
部屋に帰ってから手洗いとうがいをしたが、特に中指を念入りに洗う僕に、ルプスは不思議そうにしていた。
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