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18 元副会長、友人を茶に誘う
1年生の子達にお引き取りいただいて、やっと寮部屋に帰りついた僕は手洗いとうがいをした後、じっと目の前の鏡を見た。
あれだけ褒めそやされたから、何らかの奇跡が起きて短期間の内に急激にイケメンになったりしたのかと思ったりしたが、鏡の中には相変わらず通常運行の僕しか写っていなかった。
まあ、ですよね。
しかもここ数日の心労が隈となって表れ、何なら少し窶れたように思う。
お世辞にも美しいとは言えないな。
「これがなあ…。
…フィルター?フィルターがかかったのか?」
好意を持った相手に、知らずの内にかけてしまう事があるというフィルター効果。
もしや、それでは?
そう口にしてみると、本当にそんな気がしてきて、僕は少し腑に落ちた気がした。
「違うよ。しのは綺麗でカッコよくて、色っぽいよ。」
「ひゃっ…」
後ろから腰に手が回ってきて、ビクッとする。
「ルプス…。」
「しのは自分を客観視?ってゆーの?それが出来ないんだね。」
ルプスはそう言いながら僕の頬にスリスリと頭を擦り付けてきた。
…罪悪感からというか、単に何だかこの距離感に慣れてきただけというか、…突き放せない自分がいる。
それに何だか良い匂いもするんだよね。イケメンとはそういうものなのか?
世の中って不平等だな…。
着替えて2人で寮の食堂に夕食をとりに行くと、既に食事に来ていた生徒達にざわつかれた。
クラスメイト達は見慣れてきたようだが、他クラスには、未だ見慣れない僕とルプスの取り合わせに驚く生徒達もボチボチいるようだ。
それにしても僕はともかく、何故在校生である筈のルプス迄、こんなに好奇の目を向けられるのだろうか。
横並びに座って食事をし出すと、そこに園田君と御池君がトレイを持ってやってきた。
「一緒して良い?」
「どうぞ。」
2人は向かいに座り、食事を始めた。
それを見ていて、そうだ、と思い出す。
「園田くん達、チョコ好き?」
2人はうんうん頷きながら答える。
「まあまあ好き。」
「俺も。」
「なら後でお裾分けするよ。」
そう言うと、
「部屋に行って良いの?」
と聞かれる。
「ちょっと聞きたい事もあるから、後で部屋にお茶しに来ない?」
お裾分けは口実で、色々聞きたい事がてんこもりに出来てしまったのだ。
ぶっちゃけ僕の都合だ。
園田君と御池君は顔を見合わせて、次にルプスを見て、
「お邪魔して大丈夫かな、御室君。」
と聞いた。
何故だ。僕が呼んでるのに何故ルプスに聞くのか。
僕もルプスを見てしまう。
「しのがいいなら俺は大丈夫。」
ルプスは頷いて、おかずの油淋鶏を食べている。
良い食べっぷりだ。良ければ少しやろう、と2切れ皿にのせてやると、にこーっと笑ってありがとう!!と言うのが可愛い。
胸がングッとなってしまう。
不味いぞ、飼い慣らす楽しみを覚えてしまいつつある。
園田君と御池君は、そんなルプスをぽかんと口を半開きにして見ている。
そうそう、その反応もマジで気になっているんだ。
ルプスはもしかして皆にあまりイメージが良くないのだろうか。
あと、ファンクラブについても詳しく聞きたいし、学園内の様子というか、注意すべき所を頭に入れておきたい。
正直、外から来た僕には別世界過ぎて、いっそこの際キャパオーバー覚悟で全てを聞かせて欲しいのだ。
どうしたってこれから1年半近くは、この中で過ごさなければならないのだから。
「じゃあ、スマホ部屋に置きっぱだから、一旦部屋に戻ってから行くわ。」
食堂を出て、部屋の前迄4人一緒に帰って来てから、園田君達は自分の部屋に戻って行った。
僕とルプスも部屋に入り、廊下を歩いて奥の共有スペースに向かう。
キッチンスペースに置いてある卓上ポットを使って良いかルプスに聞くと、OKが出たので 僕は自分の荷物のダンボールの中からスペアのマグカップを2個出して来て洗った。
「…しまったな、コーヒーか日本茶のティーバッグしかない。砂糖も無い。」
と呟くと、ルプスが未開封のコーラの2Lを部屋から持って来た。しかも、冷えている。
まさか自室にも冷蔵庫があるのか。
「皆入れてるよ、ドリンクとかアイスとかおやつ用の小さいやつとか。」
「そうなのか。」
僕も入れようかな。
そうして準備をしている内に、ドアをノックする音が聴こえた。
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