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19 元副会長、お茶会を催す
「お邪魔します。」
「しまーす。」
玄関を開けに行くと園田君と御池君が入って来た。
「奥で良いの?」
「うん。」
寮部屋の作りは同じだから、個室なのか共有スペースのリビングなのかどちらかの確認したんだな。
今日は4人で話したいから共有スペースのソファで良いだろう。
L字型のソファにローテーブル。壁際にはTV。
一般的な配置だ。
そのテーブルの真ん中に、土産に貰ったチョコレートを2箱置いてある。
ソファに横並びに座った2人に飲み物を選んでもらうと、2人共にブラックコーヒーを所望された。
「え、良いの?」
「だってチョコが甘いじゃん。」
「だよな。」
「なるほど。僕も同意見だ。ルプスは?」
「しのと同じやつ。」
「…お前はブレないね。」
「?」
僕は微笑んで、4人分のホットコーヒーを入れ、一応ルプス用のコーラもグラスに注いで、それをトレイでテーブルに運んだ。
本当は甘党だろうからな…ルプス。
それぞれの前に飲み物を置いて、チョコレートの箱を開けて勧めて、僕もソファに座る。
御池君が目をきらきらさせながらチョコを摘んでいるのを横目に、園田君は僕に向かって口を開いた。
「それで、何かあったの?」
「え」
「聞きたい事があるんだろう?」
園田君は、色々察しが良くて場の空気を読める敏い人だ。
僕が只、甘味をお裾分けする為だけに呼んだ訳ではない事を、最初からわかっていたんだろう。
それならば話が早い、と僕は早速切り出した。
「実は、ファンクラブ設立の打診が来た。」
「えっ、早。」
「あ~、まあ何れは来るかと思ってたけど…それにしても、確かに早いね。」
御池君と園田君はまた顔を見合わせている。
何かこのカップル、可愛いな。
「因みにどんな人が来た?」
どんな…?
園田君に質問されて、僕は先程の5人を思い浮かべた。
「…1ーAの、しき…織名?とか言う猫ちゃんみたいな子と、クールな感じの日生君って綺麗な子と、あと何人か。」
「えっ、織名?!」
「知っているのか。」
御池君が反応した。
「織名飛鳥だよな。
めっちゃ可愛い顔した。」
「そうだな。彼にこそファンクラブがありそうだった。」
僕がそう言うと、御池君は頷いた。
「そう、あるんだよ。
あの子が入学して早々から。」
「ほう。」
やはり、という感じだ。
この学園であの容姿なら、さぞかし持て囃される事だろう。
「入学して来た時にさ、あんまり可愛いからこりゃ危険だってんで、良識ある有志が主導して早々にファンクラブを立ち上げたんだよ。織名を護る為に。」
「良識ある有志。」
「ちゃんとまともな先輩達もいるんだっつの。」
御池君はそう言うと、チョコをもう1つ摘んだ。
「この学園ってさ、ちょっと特殊だろ。」
御池君が真面目な顔で語り出すので、僕も合わせて頷く。
園田君もルプスも頷く。
…あ、やっぱ皆、そういう意識はあるんだ?
「同性しかいないから同性愛に走るってのも短絡的に思えるかもしれないけどさ、只の通いの男子校なら、学校から一歩出りゃ女の子なんか腐る程いるけど、ウチみたいな全寮制だと長期休暇で帰省の時くらいしか外に出られないじゃん?」
「まあ、そうだね。」
僕らは3人で相槌を打つ。
「そんな状況でさ、近くにちょっと綺麗な男がいたら、何か気になってきたりするじゃん。あれ?コイツも同じ男の筈なのに、何かいい匂いするなあとか。」
「あるね~。」
「…そう…かもな。」
園田君は直ぐに同意し、僕も歯切れは悪いが同意する。
確かに僕もルプスの良い匂いに早くもドキついてはいるからだ。
「別に女子の代用ってんじゃなくて、同じ男として意識しだすの。そういう連中は恋愛関係か、疑似恋愛関係か?まあどっちかには発展したりするよな。でもそういう連中は、まだ良いとして、問題はマジで女の子の代用品を探してる連中なんだわ。」
御池君が、ハァ…と大きな溜息を吐く。
「そういう連中は人数を組んでめぼしい生徒を襲う計画を、ガチで立てたりする。
実際に実行したりするバカもいるし、それって規模の大小はあっても、そこそこ横行してる事なんだわ。
だから、そういう標的になりそうな目立つ生徒には、ファンクラブという名目で後ろ盾がつく。いわば、セキュリティシステムだな。人数には人数で護る。」
「なるほど。人数がいれば、あらゆる場面にその目が配置されるから情報も入り易くなるだろうな。」
「そういう事だ。
で、それでも漏れはあるから、そこは学園内のセキュリティを一括担当している風紀委員会がカバーする。」
「風紀委員会?」
御池君はそこでチラリとルプスを見て、
「ですよね、委員長。」
と、言った。
「……え、委員長…?」
何の?クラス委員長?
それは園田君だよな?
「御室さんは、ウチの学園の風紀委員長だよ。」
「何時もお忙しくしてて、風紀委員室に篭る事も珍しくないのに、この数日ずっと教室にいるから皆ビビってるよね。」
「えっ」
「えへ…。」
何故か照れるルプス。
「…いや…聞いてない、よ…。」
叔母さん。
貴女から聞いた、王道学園の設定、本当でした。
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