20 元副会長、率直に聞く

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20 元副会長、率直に聞く

ルプス・エーデルシュタイン・御室は、この学園の110代目の風紀委員長である。 一年時に、その当時の風紀委員長だった3年生に腕っぷしを買われ、熱烈に勧誘されて風紀委員会に入ると、その突き抜けた身体能力と探査能力でずば抜けた成績を挙げた。 成績と言うのはつまり、それだけ校則を破ったり、不埒な行為に走ったりする連中を現行犯で捕え、悪事の首謀者やそれに迎合したバカ共をとっ捕まえたと言う事だ。 そして、2年に上がりルプスが風紀委員長に就任すると、学内で不埒な犯罪行為に及ぼうとする連中は、かなり激減は、した。 主に危険視されていた、いくつかの不良グループがルプスの拷も…、熱意溢れる説得により、改心してその軍門に下ったからだ…、と 御池君は言った。 説得。 限りなくルプスから遠い言葉では。 だって、じゃあこの喧嘩ダコは?と、僕はルプスの手を見る。 コイツは明らかに口より拳で語るタイプの人間だと、僕にはわかる。 何故なら僕が元いた高校の生徒指導の先生が、スクールコンプライアンスすれすれ…いや、もう越えた?ような…まあ、そういう感じの人だったからだ。 口より体でわからせたい脳筋タイプ…。時代にそぐわない。 なのでその先生とは、とことん反りが合わなかったのだが…。 何だかルプスにも同じ匂いを感じるのは、気の所為だろうか。 気の所為であれ。 「ルプス、いつもどうやって説得してるの?」 試しに僕は聞いてみた。 するとルプスはニコニコしながら、 「もう大体目が合うと言う事聞いてくれるから、そんなに何かする事も無いよ。」 と、答えた。 そうか。なるほどな。 どうやらそうなるに至る迄に、色々あったようだ。 「この中では悪い事をして多少無茶な躾をされても自業自得って、猿共もようやく最近理解が追いついたらしいんだ。」 園田君が菩薩のような微笑みでそんな物騒な言い回しを言するので、僕は何だか猿と呼ばれている、所謂学内の不良達が少し気の毒になった。 しかし直ぐに思い直す。 酒や煙草や喧嘩程度ならともかく、例えば私刑やレイプみたいな他人の人生に多大な影響を及ぼす犯罪は、例え未遂であろうと謀った時点でド屑だ。 猿呼ばわりされても文句は言えないだろう。 場合によっては苛烈な制裁が必要な場合もある…のかもしれない…な? ともあれ、ルプスがそういった重責を担っているのはわかった。 大きな捕物がある時は部屋を留守がちにしていたんだろう。 何だかこの学園の風紀委員って最早刑事だな。 いやまあ確かに役割はそのまんまなんだが。 「ルプスの立場については取り敢えずわかった。」 僕はルプスを見ながらそう言って、 「いつも頑張っているんだな。ご苦労さま。」 と言うと、ルプスが目をうるうるさせながら抱きついてきた。勢いが良過ぎて衝撃で後ろに倒される。 ゴフッ…、頼む、力いっぱいで来ないでくれ。ソファに背中がめり込んでしまう。 「俺、頑張ってよかった! でもしのが来てくれるのわかってたら、もっと気合い入れるんだったなァ…。 これからはしのが暮らすとこは、ずっと俺がキレイにするからね!」 「う、うん。ありがとう…。」 …え、これは礼を言う流れで良かったのか? 気合い入れられる余力、あったって事? 何だか底が知れなくなってきたルプスに微妙に引いてしまっている自分がいる。 「そ、それは十分わかった。 で、話を僕のファンクラブの打診があった話に戻したいんだけど…。」 「あ、うん。」 ルプスを退けて、体を起こし園田君と御池君に向き直る。 「御池君とルプスが風紀委員だって事なら話が早い。 もし、そういった情報が入っているなら率直に答えて欲しいんだけど、」 「何?」 御池君が身を乗り出した。 「僕に対して、不埒な考えやそれに伴う不穏な画策を持っている連中の話や情報が、入っているという事は?」 御池君の表情が一瞬、固まった。
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