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「琉くんって、ちっとも私のこと見てくれないよね。ねえ、私の向こうに誰を見てるの?」
同棲している恋人にそう言われた瞬間、俺は思わず、またか、と思ってしまった。それは相手に対して思ったというよりも、自分に対して抱いた感情だったが、顔に出ていたらしく、彼女の神経を逆撫でした。
「っ……!」
彼女が投げつけてきた合鍵が、掴み損ねてこめかみに当たり、痛みに一瞬目を閉じる。その間にも、彼女は玄関に向かう足音を響かせながら、研ぎ澄まされた刃のように鋭く言い放った。
「さようなら」
俺はわざと痛みに呻いているふりをして、その背中を見送ることも、追いかけようとすることもない。
大きな音を立てて閉まった扉を見て、ほっとして息をつく自分に、呆れて乾いた笑いが漏れた。だが、次の瞬間には表情を消し、床に転がっていたシガレットケースから煙草を取り出すと、火を点け、紫煙を燻らせる。
息を吐き出す時にはもう、出て行った元恋人のことはほとんど頭になく、ただ遠い過去の記憶に浸ろうとしていた。
我ながら最低な男だとは思う。それでも、何度恋人を作ろうとも、消すことができない記憶があるのはどうしようもなかった。
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