愛の言霊

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 月も濡れていた。  俺と美波はお互いの熱を貪り食うように、シーツの上で絡まりあっていた。  シャツ、ブラウス、スラックス、スカート、理性、道徳、身につけていたものはすべて脱ぎ散らかして、軽くなった体をひと時の楽園に溶かしていた。  俺の胸元から唇で這うように美波が近づいてきて何かささやいた。そろそろ欲しいんだな、と、うなずくことは容易だったが、この部屋に入ってから段々と熱を帯びていく美波の潤んだ瞳がたまらなく愛しくて、俺は悪魔にならざるを得なかった。  初めての情事。初めての秘め事。初めてのこの瞬間は今しかない。俺はこの興奮を一滴もこぼすことなく味わいたかった。 「なにが欲しい?」  夢中で俺の首にキスをする美波の外耳を噛みながら俺はささやいた。  美波は俺の肩のあたりに顔を埋め、イヤイヤと顔を横に振った。 「ちゃんと言わないとわからないよ」  今度は美波のコメカミあたりに唇を寄せて、俺は追い打ちをかけるようにささやいた。美波の内から出た熱が美波の耳先まで赤くした。美波はまた激しく顔を横に振った。  俺のデコルテが美波の瞳からこぼれた雫で少し湿った。いつもの俺ならくだらない冗談をすぐに謝っていただろう。しかし、今の俺は違っていた。美波の瞳からこぼれ落ちるどんな涙も今の俺には魂を酩酊させるアルコールだった。  半端なワインより悪酔いさせられてしまった。  俺は美波を抱きしめると、そのままクルッと美波ごと寝返りをうった。そして美波に覆いかぶさるようにして上になると、美波の両腕を押さえつけた。  あらためて俺に見つめられた美波は、恥ずかしそうに横を向いた。ストレートのショートヘアーが汗で乱れて頬に張り付いていた。オレンジ色のベッドサイドの間接照明がその姿を妖艶に照らし、その美しさが俺をさらにダークサイドへと落としていった。 「ほら、なにが欲しいか言ってごらん?」  俺は催眠術を懸けるかのように強く美波を見つめた。その俺の視線は、自分の身がもはや蜘蛛の巣に捕らえられた蝶なのだと美波にわからせるのに十分な熱を持っていた。  美波が観念してゆっくりと俺の方へ顔を向けた。 「さあ、言ってごらん」
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