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母の怒り
村人たちは大蛇の祟りだろうかと村長を筆頭に山を登り大岩まで来た。
「この岩を祀れば大蛇の怒りも収まるだろうか」
そう言って村長が大岩に触れた瞬間、大きく空が裂け稲妻が走り、立派な龍が現れた。
「私の大切な姫を殺したのはお前たちか! 誰が姫を殺せと言った! 言わねばこの地から永久に水を消し去る!」
怒りに満ちた龍の声が地面を揺らす。
村人はその場で動くことも出来ずただ震えていたが、村長が一歩前に進み出て、おびえながらも龍に向かって叫んだ。
「わしだ!」
すると、龍は村長の方へ顔をぐうっと近付けると、先程とはうって変わって優しい口調でこう言った。
「ほう、お前は正直だ。お前の正直さに免じて、許してやらんこともない。お前はこの村の長か」
「ああ」
「姫は、たった一人の私の娘だった。長き修行を終え、あの日私のところへ帰ってくるはずであった。のう、長よ、お前には子供はおるのか?」
村長は答えた。
「ああ、せがれがおる」
「そうか。名は何と言う?」
「伝助という」
「そうか……そうかあ! 『デンスケ』かあ!」
龍は再び大きな声を上げ雷鳴を轟かせた。
「長よ。お前を殺しても私の怒りは収まらぬ。悲しみは癒えぬ。お前のせがれ『デンスケ』を差し出せ! 良いか、明日の夜この場所で『デンスケ』を差し出さねばこの地に草一本生やさぬ! 子を失った親の悲しみをお前も味わうが良い!」
龍はそう言い終わると大きく弧を描き空へと登っていった。
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