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伝助とでんすけ
朝になると村人がいくつかの案を持ってきたがどれも得策とは言えず、村長はただただ絶望に打ちひしがれていた。
「おらが代わりになるよ」
ふいに部屋の向こうから声がした。
「誰だ」
村長が言うと、でんすけが部屋に入ってきた。
そして、
「おらが伝助の代わりになるよ。おらも『でんすけ』だからきっと大丈夫だ」
と笑った。
「聞いていたのか。気持ちはありがたいが……命を粗末にしてはならん」
「兄さが正しいと思うことをしたように、おらもおらの正しいと思ったことをする。伝助にはおっとうがいる。おっかあがいる。身寄りのないおらの命一つで村が助かるならこんなに嬉しいことはない」
「お前も村の仲間だ。身代わりになどできるものか!」
村長はでんすけの言葉に甘えてしまいそうになる自分を堪えて伝助を捜した。
しかし、いくら捜しても伝助は村のどこにも居ない。
村長の家や友達の長屋など、伝助が行きそうな場所は全て捜したがどこにも見当たらなかった。
そうしているうちに辺りは暗くなっていく。
村長は悲しそうに、申し訳なさそうにでんすけに
「本当に良いのか?」
と聞いた。
「うん」
でんすけはにこりと笑った。
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