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たった一つの願い
村人に見守られながら、二人は大岩に向かって山を登っていった。
途中、村長はでんすけに尋ねた。
「わしらのせいで本当にすまない。何かわしにできることはないか?」
でんすけはしばらく考えていたが、
「おらにはおっとうもおっかあもいない。兄さも居なくなった。なんの取柄もないおらのこの身ひとつ、居なくなったところでどうということもない。でも、もしできることなら……少しの間でもいい、おらのことを覚えていてほしい」
「忘れるものか。忘れるものか。村を救う立派なお前のことを、村の誰もが忘れるものか」
村長は涙をこぼしながらでんすけの頭を何度もなでた。
そして、とうとう大岩に着いてしまった。
二人が大岩に着くや否や大きく空が裂け稲妻が走り、昨晩の龍が現れた。龍は二人を睨みつけると、
「待っていたぞ、長! せがれを連れてきたか!」
龍は村長に尋ねたが、村長はどうしてもせがれだと言えない。
すると龍は顔をぐうっとでんすけのほうに近付け、
「お前が『デンスケ』か?」
と尋ねた。
「そうだ! おらがでんすけだ!」
でんすけは力いっぱい叫んだ。
するとたちまちでんすけの身体は龍の尾に巻かれ空へと舞い上がった。
「約束通り、これで許してやろう。子を失う悲しみを味わうが良い!」
龍はそう言うとそのまま夜空に登り消えていった。
後にはしんと静まり返った大岩と村長が残った。
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