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「はぁ……返事こない」
スマートフォンの画面を見つめ、鈴寧は小さくつぶやいた。鈴寧という名前は本名ではない。小説投稿サイト『アップルノベル』で使用しているペンネームだ。
鈴寧はここで小説を書きはじめて一年になる。趣味の延長で書いているだけで、プロの作家を目指しているわけではない。気が向いた時に、パッと思い付いたストーリーを小説風に書いているだけで、まともにプロットをたてたこともないし、そもそもいまだにプロットがなんなのかわかってもいない。
だが、そんな鈴寧にも少ないながらも読者はいる。中でも、いつも『リンゴ』を送ってくれる成田智基は鈴寧にとって特別な存在だった。
リンゴとはSNSでいうところのイイネのようなもので、各小説ページの下部に真っ赤なリンゴのマークが設置されている。一作品につき一日一回送ることのできるそれを、成田は毎日のように送ってくれ、鈴寧のリンゴはそのほとんどが成田から送られたものだった。
彼が、いわゆる読み専であるならば、鈴寧とてこんなにも執着はしない。ただの読者のひとり。ただのファン。そう思っただろう。
ところが成田は読み専ではなく、アップルノベルに小説を投稿しているクリエイターだ。しかも、その作品は鈴寧の子どもっぽいお話とはわけが違って、ちゃんと読みものとして成立している小説だ。そんな成田が、自分のような趣味のお話書きに対し、毎日のようにリンゴを送ってくれるのが、鈴寧は誇らしくてならず、そして嬉しくて堪らなかった。
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