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「今日は亜衣の好きなオムレツか」
俺はネクタイを外しながら、リビングのテーブルの上のラップが掛かった皿を見て言った。
「スープ、温めますね」
「ありがとう」
2年前まではこのタイミングで冷えたビールの缶を開栓していたが、亜衣が早く目を覚ますよう願掛けして以来…飲んでいない。
妻は俺の食事の準備をすると、急いで2階に上がる。
亜衣から目を離す時間が怖いのだ。
亜衣が起きてくれたら大喜びだが、ひっそり永遠の眠りについてしまっていたら…酷く後悔するのだろう。
俺はささっと食事を済まし、使った食器を片付けて、2階に上がる。
「お待たせ」
「はい」妻と俺は交代し、風呂に入ってもらう。
眠っているの亜衣のベッドのそばに座る。
布団から亜衣の手を出し、そっと握る。
ふと、枕元に置かれた、さっき読み聞かせていた小説が目についた。
亜衣の手を離し、小説を手に取り、適当なページを開く。
いつも妻は上手に読み上げているが……よくこんなものを読み聞かせ出来るな…。
「あ、『あなたは私のことがお嫌いなのでしょう!なのにどうして…』
泣いちゃダメだ。涙を見せるのはズルすぎる。
『さぁ、どうしてだろう』
王子は私の髪をすくい取り、そっと髪にキスをした…って、何じゃこりゃ!」
妻を真似して読み上げてみたが、45歳の男としては、ちょっと内容的に恥ずかしい。読み上げた事を後悔し、この瞬間だけは、亜衣に聞いていて欲しくないと思った。
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