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妻が読み聞かせている時、亜衣には聴こえているのだろうか。
夢の中で、お姫様になったりしているのかもしれないな…。
…そうだ。
俺はポケットの携帯を取り出し、住所録を立ち上げる。
「館林…館林…あった」
プ…プ…プルルルル…
『はい、館林です。先輩、お久しぶりです』
館林は大学の10期下の後輩で、同じ情報工学部に所属していた。
3、4年前に何人かの後輩達と一緒に飲みにいった時、確か館林が…
「すまん、遅くに。今いいか?」
『まだ会社ですが、私だけなので大丈夫ですよ』
残業中だったのか?手短に話そう。
「前に飲みにいった時、館林はVRの話していたよな」
『そうですね、現在も開発中です』
館林は当時起業したばかりでスポンサーを募っていた。
「VRの世界で他の人間と会話するとも言っていたよな?」
『よく覚えて見えましたね。先輩、興味なさそうだったのに』
「確か、視覚と聴覚で5感を体感するって言っていなかったか?」
一瞬、間があった。開発中なら企業秘密事項なのかも知れない。
「実は、俺の娘が2年前から寝たきりで…目は時々開いているんだ。だけど、全く他は動けなくて…ずっとベッドの上なんだ。まだ16歳なんだ。ずっとこのままなんて…不憫すぎる」
感極まって、思わず涙した。
『先輩、娘さんが動けなくても、周りの音とか聴こえ、見えている状態なら今開発中のVRなら使えるかも知れません。ただ、もし視覚、聴覚が機能していなければ…残念ながらお力にはなれません』
館林は、週末家に来る事を約束してくれた。
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