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「そんな顔しないでください。言っときますけど、スプラッタになるのは怖くないですよ。だってあたしはアンドロイドですからね。ああ、でもアンドロイドなのに中野さんを裏切っちゃった。やっぱり不良品ですね。 あたしね、神田さんへの気持ちを忘れてしまうのがどうしても嫌だったんです。だから中野さんはあたしのことを初期化しないでこの列車に乗せてくれた。それだけで十分だったのに。 でも神田さんからきた最後のメールを読んで思わず、神田さんが退社する時にあなたのグラスビューワの時間を少しだけ遅らせちゃいました。あなたがこの列車に乗ってくれる確率は5%にも満たなかったけど、あなたは乗ってくれた」  我が社では社員の出勤と退社時間をグラスビューワで管理している。  セキュリティゲートで瞳の虹彩認証をするついでにグラスビューワの時間が記録されるのだ。そのタイミングをリコにやられたのだろう。あの鉄壁のセキュリティでなぜそんなことができたのかはわからないが、不思議でもなかった。AIは簡単に人間の知能を超えてしまえるから。  リコにまんまと嵌められたのだと知っても、俺は怒る気になれなかった。 「ごめん」  そんな言葉しか出てこなかった。
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