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「あたしは何回インストールし直しても神田さんへの気持ちが消えなくて、中野さん以外の皆にはバグだって言われました」
リコの瞳から涙がこぼれる。涙の成分を持った液体が。
それは何の濁りもなく、俺が知っている限りで一番美しい色をしていた。
「でもあたしはバグじゃないと思ってるんです。それってどうしてだかわかりますか?」
それは、俺だってそう思いたいさ。リコを目の当たりにしたら、ロボットにそういう感情が芽生えることがあるんじゃんないかって信じたくもなる。だってリコはヒューマノイドだろ?
どうしてって言われたって、そんなの分かるわけない。それが恋愛感情ってもんじゃないか。
「さあ、もう時間です。あの――神田さん、」
リコが口ごもった。
「何?」
「記念に、そのジャンパーもらえますか?」
俺はスカジャンを見下ろした。白とスカイブルーの地で背中に竜が昇っている自慢の。1980年代の超が100つくビンテージで、ボーナス何回分かなんて恐ろしくて考える気にもなれない俺の命――
「こんなんでいいのか?」
「はい」
リコが嬉しそうに手を伸ばす。
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