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この世界では、目は細い方が美しいとされるし、小太りのぽっちゃり顔が美形だとされる。唇はたらこがベストで、肌は健康的に浅黒い方がもてる。
はい、ほとんど真逆の私は、この世界では二目と見られぬ、ってくらいのブスです。醜女です。当然もてません。でもいいんです。
「……アリシア。あー、その。この前の見合いだが」
「断られましたか」
「うっ。まあ、そうだ」
昼食の後、父が紅茶を飲みながら言いづらそうに話しだした。私があっさりと答えると、呻き声をあげて頷いた。
「二十三回目の破談ですね。もういいですわ。わたくし、一生独り身で暮らします」
「あ、アリシア! そんな悲しいことを言わないでくれ!」
「そうですよ、アリシア。いくらわたくしとエドワードの欠点ばかりを受け継いでしまったからといって……うう。そんな見た目に産んでしまってごめんなさい、アリシア」
「ああ、タリア。泣かないでおくれ」
父ばかりでなく母まで話に加わり、しかも泣き出してしまう。
それを慰める父も悲壮感たっぷりだし、居並ぶメイドや従者達も沈み込んでいる。私付きのメイドや執事なんて、泣いてますよ。審美眼はおかしいけど、いいお嬢様なのに、って。
「……本当に独り身でいいんですけどね」
呟いて、私はこの間の見合い相手を思い浮べた。彼は非常に紳士的で、優しく、ブスとしか見えないだろう私を女の子扱いしてくれた。しかし。
……美形、だったのだ。もちろん、この世界の。
想像して欲しい。小太りでたらこ唇、細目で色黒の青年が気障な台詞を吐く姿を。
……吹き出してごめんなさい。だって、耐えられなかったんです。
それで相手を怒らせちゃって、やっぱり破談。はあ。人間は見た目じゃないといっても、ああまで好みじゃないと辛い。
かといって、この世界の不細工、つまり私の価値観では美形の青年に恋しようにも……と、私は壁ぎわに並ぶ従者達を見た。
体力が必要な仕事をする使用人の彼らは一様に痩せているし、見た目はいまいちだ。つまり、細マッチョでなかなかのイケメンである。記憶を取り戻してからときめいたこともある。
だが、しかし。
「……な、なにか?」
私の視線に気付き、慌てたように上ずった声を上げるイケメン。その態度はどこか卑屈で、私の口から溜め息がもれる。
「……なんでもないですわ」
この世界のイケメンって、自分の容姿に自信がないせいか、卑屈な人が多いんだよね。もちろん、中には見た目が悪くても中身で勝負だ! って感じの素敵な人もいる。でもそんな人を周りがほっとくわけがなく、大抵妻帯者か恋人がいるわけで。
……やっぱり、一生独身の方がいいかもしんない。気楽だし。
まだ泣き伏している母親とそれを慰める父親を眺めながら、私はぼんやりそう考えていた。
まさかその数日後、新しくやってきた警備兵の青年に一目惚れをするなんて、この時はわからなかったのである。
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