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空港の出発ロビーは、この雪でもとても混んでいた。日本行のフライトのチェックインにも時間が掛かって、あっという間に保安検査場を通る時間になってしまう。それはユーラとの別れの時が迫っているという事だ。
横のユーラを見上げる。
「これでお別れね。お互いの夢だった過疎地域医療への貢献、頑張りましょうね」
そう、ロシアも日本も過疎地域の医療は遅れている。その過疎地域の医療改善を目指して医師を志した私は、縁あってモスクワ大学への二年間の出向を命ぜられた。そこで同じ志を持つユーラと出逢ったの。でも私達の夢を実現する為にはロシアと日本で離れ離れになる事は分かっていた。だから私達は二年間限定の恋人だって納得して付き合っていたんだけど。この胸を締め付けられる想いは……なんで……?
その時、突然、ユーラが私をギュッと抱き締めた。
「えっ? ユーラ?」
彼を見上げると、柔らかな瞳が私を見つめている。
「夢が叶ったら、いつか迎えに行くよ」
その言葉に私の心は幸せに包まれた。でも一方で、二つの国に分かれた私達に同じ未来が訪れる可能性はとても低い事も理解していた。
それでも……、いつか……。
「うん、待ってる……」
私は踵を上げて彼に口づけをした。甘い、そして最後のキスを……。
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