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フライトドクター
ハッと目を覚ました。
「……また、あの時の夢を……」
最近、私は、三年前の別れのシーンの夢を良く見ていた。あれから彼とは一度も会っていないのに……。
その時、私は北海道根室市に在る、帝国大学根室病院の休憩室のベッドの上に居た。私の仕事はドクターヘリのフライトドクター。道東の過疎地域でドクターヘリによる医療改善の一翼を担う仕事に就いていた。ある意味自分の夢を実現出来たと言えるだろう。
でも、ユーラと暮らした日々は未だ鮮明な記憶として残っていた。もう連絡も取らなくなって二年以上……。今、彼はどこで何をしているの? 夢を叶えることが出来たのかな?
時計を見ると午前七時を少し回った所だ。今日のシフトは夜勤から午後六時まで続くから、まだ気を抜けない。
休憩室の窓に掛けられたカーテンの隙間からは、もう明るい日差しが覗いている。ただ、いつも聞こえて来る外の喧騒が聴こえない。とても静か……。
ベッドから起き上がると大きく伸びをする。そして窓に近付くとゆっくりとカーテンを開いた。その先に見えたのは……。
「わぁー、真っ白!」
外は晴れていたが夜間に雪が降りつもったのだろう、高台にある病院の前は一面の雪景色だ。その先、海の方に目を向けると、根室海峡を挟んで北方領土に在る国後島の泊山も真っ白な冠雪に覆われているのが見える。ロシアに実行支配されている北方領土には容易に訪問することは出来ないけど、今日の雪では北方領土に住む人達も苦労しているだろう。
そして過疎地域医療に携わっている自分としては、ロシア本国から離れたあの島々の医療の困難さも容易に想像出来る。
「こんなに近いから、何かあったら支援が出来ればいいのになぁ……」
ロシアに少なからず想いのある私は、心の中でそう呟いていた。
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