プロローグ

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プロローグ

Мэри, ты готова?(マリー、準備は出来たかい?)」  背後から綺麗なロシア語が響いて来る。私は足元のスーツケースに手を掛けて振り返った。 「да, Юра! Погнали!(うん、ユーラ!行きましょう!)」  玄関に背の高い男性が笑顔で私を見つめている。彼は同じモスクワ大学医学部の同僚、ユーラ・プーシキン。二年間の限定だったけど、は私の恋人だ。 「車まで運ぶよ」  そう言うユーラにスーツケースを渡して、内廊下を歩きアパートの外に出た。そこは……。 「わぁ! 真っ白!」  昨晩から雪が降りつもったのだろう、アパートの前の駐車場は雪に埋もれてしまっている。仕方なく彼の車はこの先の道路に停められているみたいだ。私達は雪に足を取られながら車まで歩いた。冷たい空気が頬を刺す。  車に乗り込むと、暖房が効いた車内にホッとする。 「フライトは大丈夫かしら?」  どんよりとした空に少し不安になる。 「大丈夫、シェレメチェボ空港の発着は平常みたいだよ」  そう言いながらユーラが車を発進させた。  車の中で私達は殆ど話さなかった。時々、運転する彼の横顔を見つめると、少しだけ、胸が締め付けられる。  でも、この別れは二年前から決められていた事……。お互いの夢を実現する為に……。
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