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sideリゼル
俺は何をしているんだ。
兄様の気に入っている女に勝手に触れるなんて。
これがバレたら殺されるな。
「俺はもう帰る。シーラ、お前も海の底へ戻れ。」
シーラは笑顔で頷いた。
「うん、戻る!…ねぇ、リゼル。」
シーラは俺の様子を伺うように上目遣いをした。
「どうした?」
何か言いそびれたことでもあったか?
「あの…リゼルもたまにはここに来てくれる?
私はリゼルともっと仲良くなりたいよ。」
下心のない好意ほど胸に刺さるものはない。
兄様がシーラを気に入った理由がわかった気がする。
シーラといれば何の駆け引きもしなくていい。
心が休まるんだ。
「あぁ、もちろん。」
俺の答えを聞いてシーラが嬉しそうに笑った。
「ありがとう!楽しみにしてるね!」
様子を伺う顔は笑顔に早変わりした。
「あぁ。ほら、早く行け。」
お前が誰かに見られる前に。
本当に殺されてしまわないうちに。
「はーい!おやすみー!」
シーラは少し離れて俺に手を振ると海の底へ帰って行った。
「さて…」
俺も帰るか。
兄様にこの事が知られぬ内に。
***************
sideシア
服を着替え風呂に入った。
それはいいんだけどね……
「……兄様。」
外出から帰ってきたリゼルとばったり会った。
こんな時間にお出かけ?
珍しいね。
「リゼルはどこへ行ってたのかなぁ。」
僕がそう聞くと、リゼルはバツの悪そうな顔をする。
可愛い僕の弟は嘘をつくのが下手くそだ。
「海の匂いがするね。僕に内緒でシーラに会いに行くなんて、リゼルも隅におけないなぁ。」
頭を撫でるとリゼルは申し訳なさそうな顔をする。
「別に下心はない、シーラにいろいろと気を付けろと忠告しに行っただけだ。
怒らないでくれ。」
こんな年になっても僕に怒られることを気にしているなんてね。
「うん、怒らないよ。リゼルは可愛い僕の弟だからね。」
しっかり者だけど少し間抜けで憎めない。
「冗談はよしてくれ。兄様ももう寝ろ、明日は早くから会議だ。」
面倒だなぁ。
「じゃあ明日起こしに来て?」
「俺が起こすのか!?自分はいくつだと思っているんだ!」
お説教くらいそうだなぁ。
逃げよう。
「じゃあ、おやすみー。」
「兄様!!あぁ、もう全く…おやすみ。」
リゼルが起こしてくれるから朝までゆっくり寝よう。
そして、明日の夜はシーラに会いに行こう。
明日が楽しみだなぁ。
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