241人が本棚に入れています
本棚に追加
sideシア
「兄様。」
退屈だなぁ…
僕何やってるんだっけ?
「兄様。」
会議って事は知ってるけど、何の会議だっけ?
忘れた。
「兄様。」
さっきからリゼルが僕の隣でしつこい。
しかも小声。
「ん?」
「ん?ではない。集中してくれ、頼むから。話を聞くだけでいいんだ。」
リゼルは今日もピリピリしてるね。
「リゼルが聞いてるからいいかなぁ、って。」
僕が笑うとリゼルが大きなため息をついた。
「全く……勘弁してくれ。」
僕はとある人魚のことで頭がいっぱいなんだよね。
今夜も会いに行こう。
昨日と同じ場所にいてくれたらいいけど。
*****************
sideシーラ
夜になり、昨日と同様にぼんやり海を漂っている。
そんな中、私には嬉しい出来事が。
「シア!」
昨日と同じところにボートが一隻。
私はすぐに海から顔を出した。
「シア!」
昨日みたいにボートに上半身をかけてシアにグッと近付いた。
「シーラ、来てくれたんだね。」
それはこっちのセリフだよ。
「うん!シアも来てくれてありがとう!」
嬉しくて顔が緩んでしまう。
だらしない顔してないかな?
「可愛いなぁ…」
シアは突然とんでもない事を言って私を真っ赤にさせる。
「あ…ありがとう/////」
さらに私の頬に優しく触れてきた。
「頬が冷たいね。寒くない?」
シアは知らないんだ、人魚の特性を。
「うん!人魚は寒さに強いから。」
そうでなければ冬の海は耐えられない。
「へぇ、そうなんだ。シーラは物知りだね。」
優しいこの物言いも、頭を撫でる大きな手も、私は無条件に受け入れて甘やかされた。
誰かに優しく触れられることがこんなにも嬉しい事だったなんて。
今日は寝落ちしないように気をつけないと。
今日は、今日こそは、シアにおやすみを言いたい。
***************
sideシア
「ふふ。」
今日も寝ちゃったね。
こんな怖い僕の前で。
警戒心がなさすぎるのも考えものだなぁ。
悪い奴に簡単に騙されて連れて行かれちゃうよ。
いっそ、僕の城へ連れて行ってしまおうかなぁ…。
濡れた髪が乾いている。
あまり時間は経っていないと思っていたけど、案外時間は経っていたんだね。
「兄様。」
ボートが少し揺れた。
もう見つかってしまったね。
「リゼル。」
どうやってここだと分かったんだろう。
優秀だなぁ。
「兄様、何度も言わせるな。夜に城を抜け出し……」
リゼルはシーラを見て驚いている。
「……人魚、か?」
リゼルは生きた人魚を見るのは初めてみたいだね。
「うん、人魚だよ。ちゃんと生きてる。」
「それは見れば分かる。だがどうして…この辺りの人魚はあの男が!」
「ん~っ。」
あ、シーラが起きちゃった。
「ふぁ~。…??あれ?私また眠っちゃった?」
シーラは僕に聞いた後、リゼルに気づく。
「ひゃっ!」
驚いたのか、シーラはボートから離れてしまった。
「シーラ、おいで。大丈夫だから。」
シーラは警戒しながらまたこちらへ寄ってきた。
「シーラ……名前があるのか?」
二人とも困惑していて面白い。
「うん……私、シーラだよ?」
シーラはさっきと同じく、上半身をボートにかけた。
「俺は…リゼルだ。」
シーラはリゼルの名を聞いて可愛く笑う。
「よろしくね、リゼル。」
それは、僕に初めて向けた笑みと全く同じだった。
なんか、嫌だなぁ。
「リゼルにもツノがあるんだね。」
シーラは僕よりもリゼルに興味津々だった。
「あ、あぁ。兄様よりも立派ではないが。」
「……触ったら怒る?」
僕とリゼルはその言葉に驚く。
「つ、ツノを触る!?本気か!?」
その純粋な興味にリゼルは驚いているようだった。
「シーラ、もう夜も遅いから今日はダメ。」
好奇心に駆られるシーラを僕は止めた。
「明日はいいの?」
無邪気なシーラはどうしてもツノが触りたいらしい。
「うん。明日、僕のならいいよ。」
シーラになら触られても嫌じゃないと思うんだよね。
「本当に!?やったー!」
「ダメだ!ダメに決まっているだろう!」
喜ぶシーラと、焦るリゼル。
「兄様はダメだ!!」
リゼルは頑なにダメだと言った。
「どうして?」
「どうしてもこうしてもない!とりあえず今日は帰るぞ!!」
リゼル怒ってるなぁ。
「もう、そんなに押さないでよ。シーラ、また明日ね。」
リゼルが急かすから僕はオールを取った。
「うん!また明日ね!リゼルもまたね!」
「………あぁ。貸せ兄様、俺が漕ぐ。」
最初のコメントを投稿しよう!