episode1

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sideシア 「兄様(にいさま)。」  退屈だなぁ… 僕何やってるんだっけ? 「兄様。」 会議って事は知ってるけど、何の会議だっけ? 忘れた。 「兄様。」 さっきからリゼルが僕の隣でしつこい。 しかも小声。 「ん?」 「ん?ではない。集中してくれ、頼むから。話を聞くだけでいいんだ。」 リゼルは今日もピリピリしてるね。 「リゼルが聞いてるからいいかなぁ、って。」 僕が笑うとリゼルが大きなため息をついた。 「全く……勘弁してくれ。」 僕はとある人魚のことで頭がいっぱいなんだよね。 今夜も会いに行こう。 昨日と同じ場所にいてくれたらいいけど。 ***************** sideシーラ 夜になり、昨日と同様にぼんやり海を漂っている。 そんな中、私には嬉しい出来事が。 「シア!」 昨日と同じところにボートが一隻。 私はすぐに海から顔を出した。 「シア!」 昨日みたいにボートに上半身をかけてシアにグッと近付いた。 「シーラ、来てくれたんだね。」 それはこっちのセリフだよ。 「うん!シアも来てくれてありがとう!」 嬉しくて顔が緩んでしまう。 だらしない顔してないかな? 「可愛いなぁ…」   シアは突然とんでもない事を言って私を真っ赤にさせる。  「あ…ありがとう/////」 さらに私の頬に優しく触れてきた。 「頬が冷たいね。寒くない?」 シアは知らないんだ、人魚の特性を。 「うん!人魚は寒さに強いから。」 そうでなければ冬の海は耐えられない。 「へぇ、そうなんだ。シーラは物知りだね。」 優しいこの物言いも、頭を撫でる大きな手も、私は無条件に受け入れて甘やかされた。 誰かに優しく触れられることがこんなにも嬉しい事だったなんて。 今日は寝落ちしないように気をつけないと。 今日は、今日こそは、シアにおやすみを言いたい。 *************** sideシア 「ふふ。」 今日も寝ちゃったね。 こんな怖い僕の前で。 警戒心がなさすぎるのも考えものだなぁ。 悪い奴に簡単に騙されて連れて行かれちゃうよ。 いっそ、僕の城へ連れて行ってしまおうかなぁ…。 濡れた髪が乾いている。 あまり時間は経っていないと思っていたけど、案外時間は経っていたんだね。 「兄様。」 ボートが少し揺れた。 もう見つかってしまったね。 「リゼル。」 どうやってここだと分かったんだろう。 優秀だなぁ。 「兄様、何度も言わせるな。夜に城を抜け出し……」 リゼルはシーラを見て驚いている。 「……人魚、か?」 リゼルは生きた人魚を見るのは初めてみたいだね。 「うん、人魚だよ。ちゃんと生きてる。」 「それは見れば分かる。だがどうして…この辺りの人魚はあの男が!」 「ん~っ。」 あ、シーラが起きちゃった。 「ふぁ~。…??あれ?私また眠っちゃった?」 シーラは僕に聞いた後、リゼルに気づく。 「ひゃっ!」 驚いたのか、シーラはボートから離れてしまった。 「シーラ、おいで。大丈夫だから。」 シーラは警戒しながらまたこちらへ寄ってきた。 「シーラ……名前があるのか?」 二人とも困惑していて面白い。 「うん……私、シーラだよ?」 シーラはさっきと同じく、上半身をボートにかけた。 「俺は…リゼルだ。」 シーラはリゼルの名を聞いて可愛く笑う。 「よろしくね、リゼル。」 それは、僕に初めて向けた笑みと全く同じだった。 なんか、嫌だなぁ。 「リゼルにもツノがあるんだね。」 シーラは僕よりもリゼルに興味津々だった。 「あ、あぁ。兄様よりも立派ではないが。」 「……触ったら怒る?」 僕とリゼルはその言葉に驚く。 「つ、ツノを触る!?本気か!?」 その純粋な興味にリゼルは驚いているようだった。 「シーラ、もう夜も遅いから今日はダメ。」 好奇心に駆られるシーラを僕は止めた。 「明日はいいの?」 無邪気なシーラはどうしてもツノが触りたいらしい。 「うん。明日、いいよ。」 シーラになら触られても嫌じゃないと思うんだよね。 「本当に!?やったー!」 「ダメだ!ダメに決まっているだろう!」 喜ぶシーラと、焦るリゼル。 「兄様はダメだ!!」 リゼルは頑なにダメだと言った。 「どうして?」 「どうしてもこうしてもない!とりあえず今日は帰るぞ!!」 リゼル怒ってるなぁ。 「もう、そんなに押さないでよ。シーラ、また明日ね。」 リゼルが急かすから僕はオールを取った。 「うん!また明日ね!リゼルもまたね!」 「………あぁ。貸せ兄様、俺が漕ぐ。」
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