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sideリゼル
生きた人魚を数分前生まれて初めて見た。
心底驚いたのは認める。
だが……
「兄様。何なんだ、これは。」
どうして俺たちがこんなことをしている?
「これって?」
「とぼけるな、こんな事をしなくても俺たちは一瞬で城へ帰れる。
それなのにどうしてこんな真似をするんだ?」
子供の頃以来だ。
ボートを漕ぐなんて。
「だって、今の僕は悪魔じゃないからね。」
シーラには正体を隠しているらしい。
通りでシーラは俺たちを怖がっていない。
「それに、運動は大事だよ。」
「はぁ……。」
またいつもの気まぐれだったらいいが……。
*****************
sideシア
リゼルに怒られた次の日の夜、僕はまたシーラに会いに行った。
「シア!」
海面から手を振る人魚。
僕が微笑み返せば嬉しそうに泳いできてくれた。
「また来てくれたんだね!」
そうだよ、また来たよ。
シーラが会うたびに嬉しそうにしてくれるから。
だから会いたくなるんだよね。
「明日も来れるよ。」
僕の言葉にシーラがもっと嬉しそうに笑う。
「明日も来てくれるの!?嬉しいなぁ…/////」
嬉しそうに頬を染めて僕を見上げてくる。
なんか子供みたいで可愛いなぁ。
「あ!そう言えば、今日はリゼルはいないの?」
リゼルのことを聞くの?
もしかしてリゼルの事を気に入っちゃった?
「うん、リゼルは来ないよ。」
何かそれは面白くないなぁ…。
「そっか。次はいつ来るんだろうね。」
リゼルに興味を持ってほしくない。
「それよりシーラ。僕のツノ、触ってみる?」
僕が話を逸らすと、シーラは嬉しそうに目を輝かせた。
「い、いいの??」
「うん、いいよ。」
シーラが手を伸ばしたから僕も少し頭を下げる。
シーラの手が届くまであと少し。
そんな時、ボートが揺れた。
「兄様!シーラ!」
リゼルが急にここへ現れた。
「リゼル!?」
驚いたシーラは手を海に引っ込めた。
あともう少しだったのになぁ…。
「驚かせてすまない。」
リゼルはシーラに謝って僕に向き直った。
「それより兄様!今夜はダメだと言っただろ!帰るぞ!」
リゼルはカンカンに怒っている。
「えー、どうして?僕分かんないなぁ。」
とりあえずとぼけておこうか。
「どうしてもこうしてもあるか!明日の衣装合わせがあると言っただろう!
ほら、帰るぞ!!」
「リゼル、そんなにせかせかしなくても」
景色は僕の部屋に変わった。
ここは海でもなければかわいい人魚もいない。
「シーラが驚いているだろうね。」
僕らはシーラの前から急に消えたことになる。
「シーラにはまた後日説明すればいい。
兄様はここらの支配者で、史上最強の悪魔だとな。
ついでに、ふらふらと歩き回ってはいけないことも説明してくれると助かる。」
リゼルはそう言うと部屋を出た。
それと入れ替わりにメイドが僕の部屋へと入る。
「はぁ…。」
せっかくシーラに会いに行ったのに。
真面目な弟を持つと困るね。
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