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sideリゼル
兄様がダイナ嬢と踊ったかと思えば秒で玉座へ戻ってしまう。
何やら機嫌が良さそうだ。
きっと、シーラに話すネタができたと浮ついているんだろう。
困ったものだ。
ダイナ嬢は困惑していた。
おそらく、人生の中で1番短いダンスだったはず。
恥をかかされたと怒らなければいいが…。
これだから兄様は。
後で俺が何かフォローを入れておくか。
***************
sideシア
あの情報収集をしたダンスからようやく1日経った。
今夜さえ乗り切れば僕はシーラに会える。
話題作りも完璧だし会うのが楽しみだった。
とある侯爵の贈り物さえ僕の前に差し出されるまでは。
「シア様、ご招待ありがとうございます。
今宵は贈り物を持ってまいりました。」
名前は忘れた。
とりあえず白髪のおじさん。
「贈り物?わざわざいいのに。」
その贈り物とやらで僕に何を要求してくるんだろう。
僕はそっちの方が面倒だよ。
「一族一丸となって獲りました。さぁ、アレを。」
侯爵は召使に命令して石造りの箱を持ってきた。
また何持ってきたの?
なんか血生臭い。
「昨夜獲れたばかりのものでして、嵐でどうなる事かと思いましたが…」
侯爵は得意気な顔でその箱を開けた。
その中にあるのは何かの心臓。
嫌な予感がした。
「ご覧ください、人魚の心臓でございます。」
*****************
sideリゼル
ヒーリアス侯爵が何を送ったのかと思いきやこれはまずい。
「人魚の…心臓?………。」
よりによってコレか。
兄様は絶句している。
ヒーリアス侯爵は兄様の反応を伺うように見ていた。
周りが不審に思い始めている、これはまずい。
「ヒーリアス公爵…これは、その……どこで捉えたものですか?」
西の海だけはやめてくれ。
「西の海でございます。」
「髪は?」
兄様が静かに問いただす。
「髪、と申しますと…?」
「髪の色、何色だった?後、目の色は?」
西の海の人魚……
俺たちが知っている中で1人しかいない。
「そこまでは分かりかねます。我々も必死に狩をしておりましたから。
首から上はその場で撥ねてしまいました。」
それを聞いた途端、兄様はフラッと立ち上がった。
「全員、解散。異論は認めない。」
声には怒りが滲んでいる。
ここにいる者たちは全員、兄様の静かな怒りに怯えていた。
そして、静まり返った広間から兄様はすぐに姿を消した。
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