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殺せ、と誰かが叫ぶ。まるで呪詛のように広まった怨嗟は、一人の魔女の体を生きたまま焼き尽くした。その中心に、私と父はいた。
王都の広場で煌々と燃え上がる火炙りの炎が照らす隣で、父の首は落とされた。ごとり、と地面に転がった首に、どこからか石が飛ぶ。堪らず衛兵を振り払い、父『だったもの』を胸に庇い抱きしめた。
頭に、顔に、背中に、次々とぶつけられる憎しみを甘んじて享受することしか、幼い私にはできなかった。
出血と痛みで朦朧とする意識の中で、天まで届くほどの炎を見上げる。
星すら見えないほどの煌きの中、粛々と焼かれ続ける魔女の断末魔を代弁するように大きな火の粉が降り注ぎ、頬を焼いた。
その瞬間、私は魔女に呪いをかけられたのだと思った。
焼かれながら、彼女は笑っていた。
全裸で吊るし上げられ業火に炙られた身体は、もはや原型をとどめていなかった。父の首が飛んだ光景から目を離せずにいた私は、彼女の風貌すら知らない。それなのに、不自然なほどはっきりと微笑んだ口元が見えたのだ。
怨嗟に塗れて叫ぶ有象無象の人間が滑稽でおかしいのか、圧倒的な理不尽を前に泣くことしかできない無力な私を嘲笑っていたのか、その異質な笑顔の理由がわからない。溶けて地面に落ちた目玉がじっと私を見つめる。まるで、『この光景を忘れるな』と言われた気がした。
それからずっと、この時の炎が私の中で『怒り』となって燃え続けている。
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