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 香苗は声を上げて笑う。淳志の苦言をまったく意に介していないようだ。自分の信じたいものを、ただ純粋に信じる顔をしていた。 「佐和さんが今後、罪に問われるか否かは、まだわかりません。でもあの人はこの期に及んで、まだあなたのことが好きだと言った。彼女に道を誤らせたことに、悔いはないんですか」 「刑事さん、わからない人ですね。私が悔いるとか、悔いないとか、そういう問題じゃないんです。里奈ちゃんの死も、佐和ちゃんの行動も、夫の死も、ただ起こるべくして起きただけ。それを私が悔いるなんて、傲慢ですよ」  あまりにも互いに噛み合わない会話がもたらすのは、失望ではなく空虚だ。彼女が己を省みるときは、訪れるのだろうか。少なくとも、今の淳志は、彼女を説き伏せる論理を持ち合わせていない。  淳志は輝くように微笑む美しい女を前に、言葉もなく、薄く油膜の張った紅茶を見つめた。 (了)
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