4人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうかな。持病があったのかもしれない。いずれにせよ、現場を見るまで予断を持たないように」
現場に向かう車中で、藤永は前を向いたまま、自らに言い聞かせるように呟く。淳志が三年間の交番勤務を終えて、調布署の刑事課に配属されてから、この春で二年になる。昨秋から調布署にやってきた藤永とは、最近組む機会が多い。常に冷静で落ち着きがあり、後輩刑事に対しても気配りを欠かさない藤永に、淳志は好感を抱いていた。
予断を持たないように。淳志は先輩刑事のアドバイスを素直に心の中で復唱する。
現場のある住宅街は世代交代が進んでいるのか、小綺麗で新しい家と、年季の入った家が入り混じっていた。目的地は真新しい戸建て住宅のようだ。パトカー二台と救急車一台が横付けしているので、カーナビの音声を聞くまでもなく分かる。夕方の慌ただしい時間帯で、日が傾くとまだ風の冷たさが身に染みる時期なのに、近所の住民と思しき人々が遠巻きに様子を窺っている。警備役の巡査が、野次馬が密にならないように躍起になっていたが、あまり効果は現れていない。
最初のコメントを投稿しよう!