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「その質問には、イエスとも、ノーとも言えます。ごく稀に、アロマオイルで体調を崩すケースがあるということは、もちろん知っていました。でも、私の使っているリセロのオイルは高品質だし、ごく微量なら問題がないと思った。それよりも、初めての育児で疲れていた佐和ちゃんを助けてあげたいという気持ちが強かったんです。リラックス効果のあるアロマオイルを口にすれば、その日の晩は夜泣きが減るんじゃないかと、思ったんです」
「あくまで善意であった、と。ではせめて、離乳食にアロマオイルを混入することに、佐和さんの許可を得るべきだったのでは?」
「おっしゃるとおりね。そうしなかったのは、間違いなく私の過失です」
香苗はマスクを外すと、ペパーミントオイル入りの紅茶を美味しそうにひとくち飲んだ。淳志は紅茶には手を付けず、マスクもつけたまま香苗に問いかける。
「広田佐和さんによって、階段の最上段の滑り止めマットの固定が解かれて、知らずに踏んだら危険な状態になっていたことに、あなたはいつ気が付きましたか?」
「……さあ。いつだったかな」
香苗は薄く笑う。年下の淳志に余裕を見せつけるように。淳志は負けじと香苗を見据えた。
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