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「『低確率だけど起こる危険』を無視して、自分は面白いくらい負け続けた……佐和さんは、私にそう言いました。あなたはどうでしょう」
香苗は心外そうな顔をする。淳志を諭すように言った。
「……私だって、負けてますよ。友人の娘を失い、夫を失い、そして友人も失いそうになってる。でも佐和ちゃんの言っていることは少しおかしいと思う」
「どういうことですか?」
淳志は口調がきつくなるのを抑えられなかった。笑顔で、物腰柔らかに。自らに課したポリシーを、今だけは捨て去ろうと決める。香苗はそんな淳志を面白がるように微笑んだ。
「人生なんて所詮、『低確率だけど起こる危険』の中からの、取捨選択の繰り返しに過ぎないじゃないですか。勝つも負けるもないんです。起きたことが導きで、運命なんです。そうでしょう。目下、私たちを苦しませているこの感染病に対するワクチンだってそう。ワクチンによる副作用の危険のある中で、取捨選択の結果、ワクチンを打つという判断をします。結果、副作用が起きて苦しんだとしても、そういうものだ、運命だと受け入れるしかないでしょう」
「それとこれとは……」
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