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話が違う、と言いかけて、淳志は押し黙る。香苗を言い負かす術がない。香苗はさらに紅茶に口をつけて、淳志の分の紅茶の入ったカップを見た。
「あら、どうぞ、召し上がってください。そうだ、刑事さんもぜひアロマオイルを入れて、飲んでみてください。どのアロマオイルがいいかな?」
香苗は籐かごを自分の前に引き寄せて、中の小瓶を代わる代わる手に取る。淳志は彼女の指先をじっと見ながら言った。この女に、刑事として一矢報いたい。
「里奈ちゃんの離乳食に入れたものと、同じものを」
淳志のぶっきらぼうな言葉に、香苗はぴたりと一瞬手を止めたが、すぐに笑みを浮かべる。
「じゃあ、ラベンダーですね。効果は、緊張の緩和、ストレスの軽減、安眠にリラックス」
香苗は歌うように言うと、慣れた手つきで淳志の紅茶に紫色のラベルのついた小瓶から、オイルをたらす。ラベンダーのオイル入りの紅茶を、淳志の前にそっと差し出した。
淳志はマスクを外して、紅茶を口に含む。ハーブの香りが僅かにつんと鼻をついた。
「……オイルは入れない方が、美味しいんじゃないですかね」
「ふふっ、そうかしら? でも、今夜はきっとよく眠れますよ」
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