文鳥とモモンガ。

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 梅宇の本来の仕事は、有り体に言えば自宅警備員だ。それなりにハイグレードな1LDKのマンションを警備しているが、警備体制は万全なわけでもない。  気が向いた時に起き、気が向いたら出かけ、日中は本を読んだりしながら過ごして暗くなると飲みに行って、朝になったら帰る生活を繰り返している。  そんな自堕落な梅宇の収入源は名義貸しである。世の中には特定の資格がなければ営業許可が降りない業種というものがある。典型的なのが不動産業で、1つの事業所の従事者5人につき1人以上宅建士を置かなければならない。梅宇は知り合いの不動産業者に宅建士として名前を貸して、月3万円もらっている。  相場としては少し安めだが、その分信用ができる者にしか貸していない。梅宇はそのような資格を大量に保有していて、積もり積もるとそれなりの収入になる。  だから新しい資格ができるととりあえず取ってみるという習性があり、高卒で取れる資格は軒並み取得していた。  そして今回、梅宇が仲井に貸した名義はトリマー中級で、仲井の店は梅宇を動物取扱責任者として登録していた。  普段は仲井が店の全てを回している。けれども今回は生憎、仲井が海外に希少動物の買い付けに出かけていた時、店を預かるバイトが交通事故に遭って来れなくなったと言う。 「店を開けなくて良いんだ、動物に餌をあげて温度管理がおかしくなってないかだけ確認して欲しい。餌の分量は全てメモしてある」 「1日1回見に行けばいいか?」 「いや、あの、ぴーちゃんの子どもがいて、ですね」  急に仲井の声がうろたえ始めた。  ぴーちゃん……。  責任者になっている手前、月に1度ほどは店に様子を見に行く。それで仲井が猫可愛がりしていた文鳥を思い出す。そして卵を産んだと言っていたことに思い当たる。  生まれたばかりの文鳥は1日4、5回餌をやらないといけない。 「糞。今2時半かよ。朝飯やってねえじゃねえか!」 「そう! そうなんだよ! だから早く餌をやらないと!」 「1日3万だ」 「えっ高くない?」 「この俺に規則正しい生活をさせようというんだぞ?」 「すまなかった」  それで先ほどの顛末に至る。
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