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「あれ? 越前さん? 何で?」
梅宇は徳田の声がおもったより元気なことに安心した。
「今、仲井の店で餌やりしてるんだよ。それで公理からモモンガ預かったんだって? 連絡先を聞いてさ」
「うんうん。マチェテちゃんね」
「マチェテ? 今日返すらしいんだがどのケージだ?」
「ケージ? ケージはどうだったかなあ。えっと耳が他の子よりちょっと垂れてて額の三角がちょっと丸っぽい子だよ」
「垂れ……? 俺じゃ見分けがつかん。他に何かないか」
「ええ他に? 首元がピスタチオみたいな匂いがする」
梅宇は徳田はさっきから何を言っているんだと思いながら試しに嗅いでみたが、モモンガ特有の獣臭さと湿気った匂いがするだけで、区別なんぞ全くつかなかった。わずかな違いがあるんじゃないかという程度には判別できるが、ピスタチオ感なぞまるで感じることはできない。
そしてそもそも梅宇自身と徳田のピスタチオ感が違う可能性に思い当たる。ピスタチオを嗅ぎ慣れている人間などほとんどいないだろう。
つまり徳田は全く当てにならない。
「そういや事故ったって聞いたが大丈夫なのか? 可能ならどれがマチェテなのかだけでも見分けてもらいたいんだが」
「うう。ごめんなさい。骨折して入院してるんだ」
「電話大丈夫なのかよ」
「平気平気。明日にはお店にでれると思う」
「まあお大事にな」
流石に病院にケージ付きのモモンガ6匹も持ち込むのは不可能だ。それ以前にそもそも病院はペット厳禁だろう。
梅宇は再び途方に暮れた。
「うん? 臭い? おい智樹、そのマチェテはどのくらい前からここに預けてるんだ?」
「前っていうか夜だけ4日くらいかな」
「そうするとそのマチェテに付着した臭いはおそらく飼主の臭いが強くて、他のモモンガはこの店の臭いが強い気がする。徳田が言っていたように臭いで区別できたりするのかな」
梅宇はピスタチオ感はさっぱりわからないが、何らかの手立てで区別がつくのではないかと首を捻り、智樹と一緒に匂いを嗅ぐ。
「どれも似たような変な臭いだよ? つゆちゃん違いわかるの?」
「今のところ全然わからん。俺らは何をやってるんだろうな」
再び手元の入荷資料をめくってダメ元で手がかりを探す。そこからは他のモモンガの入荷はおおよそ2ヶ月から3ヶ月ほど前で、1匹だけ半月くらいのモモンガがいることが記載されている。
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