文鳥とモモンガ。

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「お前はケージごと預けてたんだよな」 「そうだよ」 「そうするとこのモモンガの家は持ち込んだままってことだよな」 「うーん、特に変えてはないと思うけど。あ、家はピンクだった。だからこの子とこの子は違うかな」  家がピンクのメスは4匹だ。これで4匹に絞れた。  モモンガの家は袋状になっている。布製だから臭いが染み付きやすい。だから梅宇はモモンガを家から追い出して袋を回収した。モモンガは夜行性で昼はだいたい家で寝ているものだから、無理に追い出されたモモンガはシューシューと威嚇の声を上げた。 「可哀想じゃない?」 「でも他に手がかりはないぞ」 「臭いの違いなんてよくわからないよ」 「ああ。そりゃここで嗅いだってわからないだろ。そもそも嗅ぎ取ろうとしている店の中なんだから」  ここで? と呟く智樹を連れ、梅宇はモモンガの家の袋と何枚かのビニール袋を持って店の外に出た。  外に出ると服が獣臭くなっていることに気がつき、梅宇は悪態をつく。エキゾチックアニマルというのはだいたい臭い。フェレット然りモモンガ然り、臭腺というものがあるからだ。それでもペットショップで売られるような個体は若いからまだマシだが、そもそもペットショップにはいろんな動物の匂いが混じり合った臭いがする。 「この服の臭いがとれなければクリーニング代を請求したってかまやしないよな?」 「その格好で?」  慌てて家を出てきたものだから、梅宇は適当なシャツとパンツ姿だった。ジャージ上下よりはマシという程度。  気を取り直して梅宇は外の清浄な空気の下でモモンガの袋を嗅いだが、やはり臭いだけだった。 「俺は何をしているんだろう……」  梅雨は自問自答を始めた。 「まぁまぁ。それでどうするの?」 「臭いの違いを探す。そのマチェテだけ独特の臭いがすればいいかな、と」 「それで何をやってるの?」 「モモンガの袋を直嗅ぎすると臭すぎるからさ、今臭いを貯めてる」 「臭いを?」 「そう。チャック付きの袋に空気と一緒に入れておいて、純粋なモモンガの袋の臭いをだな」 「そういうのどこで知るのさ」 「……臭気判定士を取る時に習った」 「つゆちゃんは相変わらず何でもできるねぇ」 「……何でもはできないぞ」  何でもできるのかな、と独り言ちた梅宇は実際は大抵のことはやろうと思えばできるのだ。医師や薬剤師等の受験に大卒資格が必要な資格や、学校や実地で学ぶことを前提とした資格以外、つまり一発合格が狙える資格を梅宇は軒並み持っている。  そんなわけで記憶力も地頭もそれなりにいい梅宇は、テキストを思い出しながらチャック付き袋からモモンガの袋を取り出すと、モモンガの袋の臭いの満ちた20センチ四方の袋ができた。そしてその端だけ少し開けて空気を押し出す。  (くさ)かった。  (くさ)いがその(にお)いは袋を直嗅ぎしたほどではない。 「わぁ。梅雨ちゃんがビニール袋に入ったナニカを吸ってると薬やってるみたいだねぇ」 「真っ昼間に何つうことを言うんだ全く。お前も嗅げ。俺は別に嗅覚が鋭いわけじゃないからな。多数決だ」 「2人で多数決?」
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