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それで2人でモモンガを嗅いだ結果、似たような臭いがするのが2つずつ残った。
「どっちなんだよ」
「うーん。どれも違う方向で臭いような?」
しかも個体差もあるのか、それぞれ臭いが違う。というより店の臭いより個別のモモンガの体臭のほうが強い。
それで結局、追加で他の4匹のモモンガで試したが、それぞれ2匹ずつのグループが出来てしまい混迷は深まるばかりだ。
つまり4パターンの臭いがするように思われるモモンガが2種類ずつ。
「純粋に店の臭いがするものってなんだ」
「お店の備品とか?」
「匂いが移りそうなもの、布製品、最近店にあるもの」
そう考えて思いついたのは文鳥だった。
あの文鳥はせいぜい2週間ほど前に生まれたばかりで、仲井の溺愛ぶりから考えると店から出してなんていやしないだろう。だから店の臭い以外はしないのではないだろうか。梅宇はそう結論づけた。文鳥は清潔にしていれば独自の匂いはほとんどない。
しかしかといって、文鳥を袋に突っ込むわけにもいかない。文鳥の寝床も布だったことを思い出したが、流石に梅雨もあの文鳥の雛を家から追い出すのは気がひけた。
梅宇がそう思って悩んでいると、智樹が文鳥の家ごと袋にいれて外に持ち出して首を傾げる。
「このまま臭いを嗅ぐ?」
「このままって……」
チャック袋の中の文鳥の家の中では文鳥がピヨピヨと音をたてている。梅宇にはどことなく喜んでいるように見えた。文鳥もペットショップの外に出るのは初めてなんだろう。
梅宇は何だかもうどうでもよくなっていた。
そして嗅いだら先程与えた餌の臭いがした。水で溶いた粟のしけった臭いだ。
この時点でなんというかもう、ペットショップの臭いで区別するのは土台無理なのではないかと少し思い始めた。モモンガの臭いの個体差というのはどれほどあるのだろう。途方に暮れる。
梅宇は特に嗅覚が鋭いわけではないのだ。本当に。
「あ、この2匹の気がする?」
「なんでだ? 特徴的な臭いでもするか?」
「いや、なんていうかさ、逆だと思うんだ」
「逆?」
「そうそう。同じ匂いを見つけるんじゃなくてさ、文鳥も含めてこの2匹だけ一種の臭いがない」
「臭いが……?」
「そう、ヘーゼルナッツみたいな臭いがしない」
「ヘーゼルナッツ? ピスタチオじゃなくて?」
梅宇の頭は混乱を来している。何が何だかわからなくなってきた。特定の臭いが『ある』ならともかく、『ない』ことが何の証明になるのか。けれども智樹はあの店全体もヘーゼルナッツの匂いがしたような? と首を傾げた。
けれども梅宇は思い直す。そうといえなくもないのか?
そもそも智樹のモモンガは新しく持ち込まれたものだ・だから異なる臭いがするのを探していた。臭いが『ない』こと自体も『異なる臭い』にふくまれるかどうか。それなら他に共通している匂いがないなら、この2匹のどちらかなのか?
そう思ってみると、その2匹のうちの1匹は他の個体より少し小さかった。確か1匹は新しく入荷したモモンガの筈だ。他より臭いの付着は少ないだろう。
「おい智樹。その預かったモモンガってのは小さかったのか?」
「うん? んー。他の子と同じくらいの大きさだったから、この一番小さい子とは違う気がする」
「とするとこの小さなのと一緒の奴が預かった奴……なのか?」
「わかんない。もうこれでいいんじゃないかなぁ」
「お前、飽きてきただろ」
「だって本当にわかんないんだもん」
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